A・E・W・メイスン『薔薇荘にて』|見かけより素早い探偵と、よくよく考えればなんにもしてない男

 

 

A・E・W・メイスン『薔薇荘にて』

世界探偵小説全集を読んでいきたい

 

 八月の第二週にはいつもサヴォワ県の温泉保養地エクス・レ・バンへ旅行し、五、六週間ほど快適に過ごすのがリカード氏の習慣だった。午前中は形ばかり湯治のまねごとをし、午後は自家用車でドライブ、夕方にはクラブで夕食をとり、その後は〈花の館〉のバカラルームで一、二時間を過ごすのだ。妬ましいほどに順調な人生を歩むリカード氏を、知人たちが羨んだのも無理はない。けれども、その一方で彼らは氏を嘲笑もしていた。悲しいことにそれは幾分は正しくもあった。というのも、リカード氏はなにかにつけ大袈裟な人物だったからで、これは氏に対する知人たちの共通の見解でもあった。氏のネクタイの好みは実に気むずかしく、ちょっとした夕食会でも、まるで女性のように気を配るといった具合に、何事においても少々やりすぎの嫌いがあったのである。リカード氏はもうすぐ五十に差しかかろうとしていたが、この歳でもう男やもめだった。だが、退屈な結婚生活と、独り者ということでしばしば受ける非難を同時に避けられるというので、氏はこうした境遇を実に好ましく思っていた。そして氏はミンシング・レーンで有利な有価証券に投資し、財を成したのだった。
 A・E・W・メイスン;豊塚由美訳(1995)『薔薇荘にて』 国書刊行会

 

 A・E・W・メイスン『薔薇荘にて』の展開は遅いようで妙に速い。ということは、温泉保養地でバカラを楽しむ引退実業家、ジュリアス・リカードの習慣と人柄を描くこの冒頭の段落だけでは、まだわからないかもしれない。リカード氏の性格について暫く描写したあと、バカラルームから閃光のように庭に飛び出してきた二十歳前の若い娘に焦点がうつる。白いサテン地のドレス、駝鳥の羽根飾りがついた黒いサテンの帽子、細長いダイアモンドの耳飾り。彼女の衝動的な様子を、リカード氏は「夏の稲妻だな」と喩える。その月曜日の晩、バカラで大勝ちしていた若き科学者ハリー・ウェザミルは、先ほど庭で見かけた若い女性(シーリアという名前だとわかる)と協力する。ところが、協力した途端に運が離れていき、あっという間に負け越してしまう。だが、ウェザミルは「あなたがここにおられるのだから、僕の運は決して悪くはありませんよ」と調子のいいことをいって、ふたりで離れていく。半時間後、リカード氏は約五十代の厚化粧の夫人が、シーリアとウェザミルと合流するところを見る。ウェザミルは明日もシーリアに会いたがっているようだが、夫人とシーリアには「二人で立てた計画」があるために会えないようだ。この時点で、リカード氏はまったくの部外者なのだが、小説の冒頭で起こる暗示的な出来事はプロットと関係がある筈だという常識的な法則に従い、注意深く聞き耳をたてている。全二十一章のうち、第一章「夏の稲妻」がここで終わる。
 火曜日になり、リカードはハリー・ウェザミルと知り合う。たまたま同じところに泊まっていたのだが、ふたりは丘の上にあるマジェスティック・ホテルまで上っていき、ホテル玄関でありきたりの話をして別れた。翌朝の水曜日、ウェザミルがリカード氏の部屋に飛び込んでくる。冒頭で予告されていたように、ネクタイの好みにうるさいリカード氏は身支度を邪魔されたせいで不機嫌になるが、ウェザミルはまったく意に介さず、サヴォワ・ジャーナルの号外を差し出す。新聞は〈薔薇荘〉で起こった殺人事件について伝えている。その別荘を所有する宝石蒐集家の富豪、カミーユ・ドヴレー夫人が絞殺され、メイドのエレーヌ・ヴォキエがクロロホルムを嗅がされて拘束されていた。薔薇荘からは車が消え、連れの英国人女性の行方がわからなくなっている――もちろん、この英国人女性こそが「夏の稲妻」こと、シーリアであることが判明する。ウェザミルは、リカード氏との共通の知人である、名探偵アノーの出動を要請する。アノーは休暇中だったのだが、ホテルで待ち合わせて会ってみると、彼もすでに予審判事に協力を依頼され、警視との対話によって薔薇荘の事件に関する情報を得ていた。捜査の裏情報をいろいろ仕入れた三人と読者は、事態がシーリアにとって不穏な展開になっていることを知る。見つかる手がかりはどれもこれも、彼女が犯人であることを示しているかのようだ。ウェザミルは憤り、シーリアの無実を証明してほしいとアノーに迫る。三人は薔薇荘に向かう、ところで第二章が終わり。
 展開が速いような気はしないだろうか。冒頭のゆったりした描写から想定される速度よりもずっと早い。三人称小説とはいえ、このリカード氏は実質的に視点人物のようなもので、物語のなかのワトスン役として、彼の目線から構成された事件が語られていく。だから、リカード氏の描写は、冒頭でじっくり語られたあとは、しだいにカメラの役割に接近して透明になるし、描写はリカード以外の心的内面には深くは立ち入れず、行動の外層だけで説明される。小説を読むとき、人体を用いた五感のカメラで物事が構成されていく不自然さがときどき鬱陶しくなる――カメラのくせに喋るな、というような感覚だ。ここにひとつの解決策がある。リカードの人柄は最初にじっくり語られ、人間カメラとして顕現したら、あとはときどき間抜けな相槌を打たせておけばいい。『薔薇荘にて』は基本的に、アクションの連鎖でことが運んでいく小説で、冒頭の念入りなリカードの人柄描写こそがどちらかといえば例外だったのだ、ということがわかってくる。それ以外にも、アノーがすでに情報を仕入れていることにして、事件に関わるまでの無駄な描写を縮約するプロットの情報整理力なども、この速度感に貢献しているだろう。アノーは見かけより素早い探偵なのだ。

 

「不格好な男にしては機敏ですな」リカード氏はハリー・ウェザミルにそう言って笑顔を作ろうとしたが、大して成功しなかった。「たちまち悪たれ小僧に変身してしまう、頭の切れる太った中年男といったところですな」
 氏はアノーという名探偵をそう形容した。この表現は今後も引用されることになるが、それというのも、この言葉が今回の事件におけるリカードの最大の成果だったからである。
 A・E・W・メイスン;豊塚由美訳(1995)『薔薇荘にて』 国書刊行会

 

 アノーのキャッチコピーを作る以外に、リカード氏はどんなことをしていたか。彼は部外者のくせに事件の諸相を目撃し、活劇的な場面にも立ち会うが、これといって大した活躍はしていない。ワトスン役のカメラは、読者と同じように困惑していればいいのだ。「そういえばリカードはなんにもしていなかったな」と読者は気づくことすらないかもしれない。リカードは作中にいながら読者と同じ理解度の情報を提供する、界面のインターフェイスになっている。もしワトスン役が映像作品としてカメラに映れば、カメラの役割は本物のカメラに奪われて、リカードはたんなる気のいい金持ちでいることをやめてしまうのかもしれない。
 薔薇荘での捜査中、アノーは幾度か奇妙な行動をとる。

 

 メイドが馬車に乗り込む間、アノーは扉を支えてやった。メイドの隣に看護婦が座り、デュレットが御者台にのぼった。やがて馬車は向きを変え、来た道を引き返していった。
「お大事に、ヴォキエさん」アノーは背の低い木々の間に馬車が見えなくなるまで見送っていた。だが彼はそれから驚くべき行動をとった。なんと電光石火のごとく階段を駆けあがっていったのである。その敏捷さにはリカードも舌を巻いた。残された面々も慌ててあとを追った。アノーはシーリアの部屋のドアに突進した。ドアを開けて部屋の中に身を躍らせた後、彼は一瞬立ち止まったが、すぐに窓辺に駆け寄り、カーテンの陰から外の様子を窺った。友人たちには後ろに下がっているよう合図する。車輪がキーキーときしる音が一同の耳にも届いた。ちょうど馬車が門を出ていくところだった。御者台に座っているデュレットが顔を上げて屋敷のほうを振り返った。するとアノーは先刻のベスナール警視と同じように窓から身を乗り出し、これまたベスナールと同じように手を振った。
 A・E・W・メイスン;豊塚由美訳(1995)『薔薇荘にて』 国書刊行会

 

 アノーはいったい何をしているのか? 事件の痕跡という手がかりだけではなく、それに対する探偵の反応もまた読者への手がかりになっている。重要な情報であるという指示は与えられるが、どうして重要なのかは解決編までわからない。アクションの中に、登場人物の反応や行動という心理的手がかりを自然に埋め込む『薔薇荘にて』の手法は、成功しているといえるだろうか。いくつか手がかりの出し方に秀逸なものはある――特に、物語の流れとしては登場するのが自然である対象が、よくよく考えればそこに存在するのが不自然なものである、というある手がかりに関しては、アクションの連鎖と推理小説の構成が小気味よく連動している事例だと思う。だが、いくつかの点で不満がある。まず、プロットが「シーリア・ハーランドは殺人者なのか?」という軸から大きく離れず、各個の登場人物の動機面に関する心理的な掘り下げがないこと。その種の心理描写はむしろ、ときどきは退屈かもしれない、いかにも推理小説的な訊問パートを取り除いた結果として、『薔薇荘にて』のやや特殊でメロドラマ的な解決編の構成によって、部分的には満たされることになる。だが、このような心理的手がかりを重視するプロットであれば、解決編に至る前に、動機面を入り組ませてだれもかれもを怪しくしておく複雑な心理の綾の掘り下げが必要だったはずだ。そういう処理が難しい話であるのはわかる。だが、これはそもそも推理小説向きの話ではないのかもしれない。また、アノーの推理の手がかりのうちに、リカード氏には伝えられない手がかりや、警察からの又聞きの情報があるなどして、パズラーとして読もうとした場合には明白な欠点がある。
 いろいろ欠点は数えられるが、探偵のキャラクター性(に頼らないプロフェッショナルな探偵像を作者は志向していたらしいが、この「大きなニューファンドランド犬」に喩えられるアノーには、ポアロのような可愛げがあると思う)や、ときには箇条書きも厭わない展開の早いプロット、手がかりの提示方法、そして、語られざることを語ることの危険性に注意しなければならない推理小説において、その結構を乱しながらも伏線はきれいに拾っていく、サディスティックな官能性がないでもないサスペンスなど、魅力の多い長編である。

 参考文献:
 A・E・W・メイスン;豊塚由美訳(1995)『薔薇荘にて』 国書刊行会

 

アイラ・レヴィン『死の接吻』|直線AB間の端正なふざけ方

 

 

 

 雑念の話をさせてください。
 雑念。読書をするとき、文章そのもの、思想そのもの、描写の運動そのものの面白さ、小説のなかに本質的な“それ自体”として転がっている何かにとり憑かれているから私は頁をめくるのをやめられないのです、という態度をとることができれば楽なのだけれど、そして、そういう時期は過去の人生のどこかの時点には明確にあったのかもしれないけれど、その無我夢中でまっしぐらな感覚を、私はいつのまにか手放してしまったように思う。本を読むときぐらいは、向こうの世界に丸ごと没入していたいのに、自分のなかでどこに向かうかも判らない力を蓄積させることができなくなって、すでに開かれている場所で、なにかを言いたい気持ちが先にきてしまう。
 いつの間にか「ただの読書」ができなくなっている。無意識にネタを探したり、なにかしらの企画を構想して情報を整理したり、こういう要素を選り抜けば興味をもってもらいやすくなるだろう、と、自意識の裏にいる観測者が好奇心を小刻みに商業化している。本を読むときいつも心のインターネットと闘っている。そういうことってありませんか。
 そういうわけでこのような仮説を考えました/こうして好奇心が企画化される。本棚に並んだ積読をなんとなく選んで、ただなんとなく読んでみる、今回はそれだけです/と、なんらかの方針を持ち出した時点で、私たちはまた、ただの読書を手放してしまう、のだろう。
 豊かで本質的な時間が切り刻まれておなじみのインターネットになる。
 助けてください。
 助かりたいと思っているとき自分が具体的にどうなりたいのか全然わかっていない。意志に具体性がなくなっていくときに不安が発生するんだと思います。
 

アイラ・レヴィン『死の接吻』

タイポグラフィが格好いいぞ


 アイラ・レヴィンといえば『ローズマリーの赤ちゃん』の原作者として有名なのかもしれない。とはいえ、ポランスキー監督の映画しか見ていないくせに、なんとなく読んだ気分になっている。実際によくできた映画なので、そのぐらいの錯覚は許してほしい。見比べたら絶対にメディアの違いに関する泉こなた箴言を思いだし、気の利いたひけらかしを言いたくなるのだろうが、結局はいまの自分の認知が圧倒的にもっとも可愛いので、ほんとに可愛い、うーん、で、読んでもいないのにアイラ・レヴィンのことをわかっているような現在の気分を虚勢とわかりつつも失いたくない、そういうださい打算があります。

 

 銃をその日本兵にむけたまま彼は立ちあがった。日本兵は彼とおなじように恐怖にとらえられていたのだ。黄色い顔がぴくぴくひきつり膝がふるえていた。もっと恐ろしいことは、この日本兵のズボンの前にどすぐろく汚物が飛び散っていたことだった。
 彼は、このみじめな姿を蔑むように見つめた。彼の足のふるえはやんだ。汗も噴きださなくなった。小銃の重みも感じられなくなって、腕の延長のようだった。動かず、彼の前でぶるぶるふるえている人間のカリカチュアにぴたりと銃口をつけていたのだ。日本兵の唇からもれることばがゆっくり哀願の調子に変わってきた。黄褐色の指が宙で命乞いをするように動いた。
 アイラ・レヴィン中田耕治訳(1976)『死の接吻』 早川書房

 

 小説冒頭はピロートークから始まる。裸の夜の付き合いのなかで、“彼”としか語られない、まだ名前のわからない大学生の青年は、彼女が妊娠して二ヶ月になることを知る。“彼”には計画があった。キングシップ製銅を経営する資産家の娘、ドロシイ・キングシップと結婚して成り上がることである。だが、社長のレオ・キングシップは古風な道徳的厳格さをもった人物で、八年前の妻の不倫を知ったことで後先考えずに離婚したほどだ。もし結婚前の妊娠が発覚したら、“彼”は財産はもらえなくなるだろう。“彼”はドロシイを説得して、口先では優しげにふるまいながら、中絶用の薬を飲ませようと画策する。
 子供の頃から“彼”の美貌は有名で、母親は好んで彼を飾りたてた。学業も優秀で、「彼の生涯でもいちばん幸福な時期だった」とされる華やかな過去が描かれるが、この段落はいきなり寸断されて“彼”は徴兵されてしまう。その戦争の場面が先ほどの引用部で、ついさっきまで順風満帆な人生を送っていた高校生が、死にかけの日本兵の胸元に向けた銃の引金をひくかどうかを決めかねている。日常のすぐ先に陥穽がある。『死の接吻』は、段落や章をまたいだ途端に、いきなり別の小説になるような思いがけない転調がいくつもある。


 薬は効かず、ドロシイはなるべく早いこと結婚しようと迫ってくる。“彼”はふと、ドロシイを殺すことを考えてみる。もちろん他殺だとわかれば容疑がかかるから、事故か自殺に見せかけた殺人でなければならない。ノートに計画をたててみる、これは単なる心理試験だとうそぶきながら。金曜日が結婚式だと考えてみると、決行の締切まで四日しかない。ふとした思いつきだったはずなのに、計画を立てるとなんだか楽しげに、とんとん拍子でことが運んでしまう。そういうことは意外とありそうな気がする。大学の薬物学の教科書をトイレで踏みつけて、さっき買ったばかりのものだと思われないように偽装する場面など、そんなことが必要なのかはわからないけれど、この手の細かいことに気を使って質を高める作業が、無性に楽しいことはよくわかる。実際の殺人も、あんがい“締切直前の楽しさ”みたいな、本来の動機よりかえって後ろ暗いかもしれない気持ちが作用しているのかもしれない。


 ドロシイ・キングシップを殺すと決めてから、学園祭前夜のような、不安に満ちた多幸感が小説のなかに充満しはじめる。夢想家で思い切りのいい面があるドロシイの行動に“彼”は振り回されてばかりで、計画の駒でしかなかった彼女の行動に、常にやきもきさせられる。『死の接吻』は、陰惨な場面で急にラブコメみたいになる。第一部はまだ計画殺人の焦燥のほうに熱があるけれど、探偵パートとなる第二部からが、明確にそうなる。
 ドロシイの姉エレンは、妹が交際していた“彼”がいったい誰なのか、候補ふたりをクラス名簿から絞り込む。ラジオDJをやっている口の達者なお調子者のゴードン・ガントと、なにやら深刻そうな雰囲気のあるドワイト・パウエルのふたりだ。だが、エレンの真意を勘づいたゴードンが、勝手に探偵に名乗りを上げて、ドワイト・パウエルの捜査に協力するといいだす――彼自身が犯人かもしれないのに! 実際にあったら洒落にならないぐらい怖いだろうが、こういう今ひとつ信用できない男性が思わせぶりなことを言いながら味方面してくる展開は非常にうれしくなってしまう。


 文章は端正でありながら、時々うっすらふざけている。
 

 しかし、手にしたオートマティック(夕方からずっとポケットに入れて重く感じられていたが、いまはからだの一部になりきっているように重量感はなくなっていた)の銃口は動かなかった。その弾丸の必至の弾道は、図表に描き出される点線のように空間を截然と結ぶのだ。A点・冷然と岩のように動かない銃口。B点・おそらくはアイオワで買ったと思われる、しゃれた背広のラベルの下にある心臓。彼はコルト・四五に眼をおとした。その青い鋼鉄の実在をあらためて確信するように眼をむけたのだ。拳銃はひどく明るい感じだった。それから戸棚の口から一歩踏みだして、直線ABの二点の間隔が一フィートちぢまった。
 アイラ・レヴィン中田耕治訳(1976)『死の接吻』 早川書房

 
 殺人のからんだ犯罪小説は、いわば「笑ってはいけない」状態として、フリが効いている場面が多い。いま犯人は決定的な凶器を出したところで、かつて日本兵銃口を向けたときと同様に、その銃は躰の一部となりつつあり、非常に緊迫した場面ではあるのだが、そのわりに「その弾丸の必至の弾道は、図表に描き出される点線のように空間を截然と結ぶのだ」と当たり前みたいなことをもったいぶって言ったり、死を決定づける射線となる直線AB間に「おそらくはアイオワで買ったと思われる、しゃれた背広のラベル」が挟まっていることを、くどいぐらいに精確な曖昧さでもって、いちいち指摘してみせたりする。たしかに銃弾は心臓を狙っているのだが、ついでにあまり関係のない、おそらくはアイオワで買ったと思われるしゃれた背広のラベルのこともぶち抜こうとしているのだ。おそらくはアイオワで買ったと思われるしゃれた背広のラベルは、その後もさほど重要になるわけでもなく、今後ともおそらくはアイオワで買ったと思われるしゃれた背広のラベルのままである。
 
 『死の接吻』のおもしろさは、プロットのめまぐるしい程の転調にある。ミステリの構造的などんでん返しの驚きがいくつもあるような転調ではなくて、むしろそれは単純なぐらいなのだが、犯罪小説としては基本的なことばかり起こるのに、文章の総体的な質感にいきなりの断絶が起こる。作者は音速並の素早さでふざけている。物事の意味としては破綻なく、むしろきれいに繋がっているのに、情緒的な繋がりが変なのだ。でも、それは場面の狭間に見出される奇妙さであって、場面のひとつひとつは適切な緊張感を保っている。アイラ・レヴィンは直線ABの合間でほくそ笑んでいる。弾丸は瞬時に貫通し、アイオワの背広は忘れ去られる。
 だがついに、転調が鳴りを潜めるときが来る。登場人物がキングシップ製銅の製錬所に訪れたとき、そこがクライマックスであることを、描写の力だけで理解させられる。
 

 その起重機の巨大なシリンダーがまわりはじめ、やかましく音をたて、その場所で前にうねりはじめた。青い火の舌が、その凝固した口のあたりにちらちら閃く。それが遠のくと、噴火のような輝きが内部から噴きあがり、白い煙のヴェールを吐き、それから凄まじい灼熱の塊りがごうっと噴きだしてきた。前に吐きだされて、巨大な容器のなかに火を発しながら流れこむ。どろどろに溶けた流れは、起重機と鋳造用の容器のあいだをぎらぎら光りながら管のように流れるのだが、固くて、動いていないように見えた。起重機はさらに遠くに移る。新しい肋材がそのシャフトの下にぐうっとさしこまれる。しかし、また動きがなくなる。鋳造用の容器の内部で、その流動体の表面が、ゆっくりあがってきて、煙を猛烈に噴きながら少しずつ量をましてくる。銅のつよい臭いが空気のなかにこもった。その流れをなした銅の、流れが弱くなり、起重機が後退するとかたちが崩れた。ついに、その流れがきれて、最後の滴りがシリンダーの縁をつたって落ちるとセメントの三和土に火が散った。
 鋳造用の容器からたちこめた煙は靄の塊りのようになって消えた。縁から数インチのところまで盛りあがって、熔解された銅の表面は、ぎらぎらする海のような緑色の、円盤のようだった。
 アイラ・レヴィン中田耕治訳(1976)『死の接吻』 早川書房

 
 この製錬所にはアイオワの背広はない。犯罪の陰でこっそりと私たちの喉元をくすぐり続けた作者も、ここだけは本当に変なことを一切していない。拡げられた伏線は一箇所に束ねられ、関係者が集められる。時間が強制的に言葉の密度で停滞させられる。ふつうの工場見学とはなにかが違う。冷却した銅が緑色になることまで書いて、たしかに具体的だが、その言葉をひとつも使わずに地獄を顕現させるような凄みがある。ここから先は一切笑いがない。
 三部構成のすべてのパートでサスペンスの種類がぜんぜん違って、ひとつの情緒でべたっと塗りたくることがない。三つのまったく異なる小説を読んだ気にさせながらも、最後までくるとやはり独特の統御感が残される。この小説を三部構成にさせた張本人である犯人には、訳のわからない異様な几帳面さがあって、そこに不思議な哀切が滲んでいる。
 彼がふと思い立った殺人の計画そのものがずっと“彼”をコントロールしていて、彼自身の意志はずっと計画のなかを不安げに跳ね回っていただけなんじゃないか、と思う。彼の一生は遠大な計画の軌道を動いているが、そのわりに彼はさほど計画的な人間にはみえない。計画的な人間は殺人なんてしない――殺人のかわりに任意の○○を入れれば、そういう日の私の人生になりそうな気がする。
 

 参考文献:
 アイラ・レヴィン中田耕治訳(1976)『死の接吻』 早川書房

 

完全理解! 密室殺人のひみつ エドワード・D・ホックから始める密室ミステリ入門

 


 こんばんは。
 


 くらやみお姉さんです。よろしくお願いします。
 

     

 よろしく。

 


 〈人物紹介〉

 くらやみお姉さん:暗いところにいるお姉さんだよ。

 

 皇帝のかぎ煙草入れくん:くらやみお姉さんが不安定になったときに水族館で購入したペンギンのぬいぐるみ。その時々で手元にある小説の名前をつけられるから、いつも違った名前で呼ばれているんだ。でも自我がないから別に気にしていないよ。

 

 

みなさん、密室殺人は好きですか? うそうそ。冗談です。あらゆる不可能犯罪はミステリの花形。密室殺人が嫌いな人なんているわけないですからね。

間違いないね。

今夜はまず、密室ミステリ初心者が読みはじめるのに最適だとくらやみお姉さんが思う作家を、みなさんに紹介したいんだ。それがエドワード・D・ホック。

へえ。どれどれ。
 



 

『世界ミステリ作家事典【本格派篇】』によると、いくつか、わかりやすい特徴のある作家みたいだね。

 

  • 短編ミステリを大量に書いた。その総数は800編を越えるほど。
  • 同一の登場人物が様々な事件に遭遇する、シリーズキャラクターを用いる作品が多い。
  • パズラー(謎解き型)の作風で、よく不可能犯罪が主題となる。

 

邦訳で入手しやすいのは、〈サム・ホーソーンの事件簿〉〈サイモン・アークの事件簿〉〈怪盗ニック全仕事〉の三つのシリーズだね。ともに木村二郎訳で、創元推理文庫から出ているよ。
 今回は、〈サム・ホーソーンの事件簿〉を紹介するよ。

 

1.〈サム・ホーソーンの事件簿〉を紹介

 

 

サム・ホーソーンは、ノースモントというアメリカの田舎町の医者で、ゆく先々で不可能犯罪に遭遇して、レンズ保安官と一緒に素人探偵を務めることになるんだ。

のどかな田舎町のはずなのに、異常な量の密室殺人が起こるんだよね。

だから、密室ミステリ入門に最適なんだ。短くて、読みやすく、密室がたくさん出てきて、面白さが早い。第一話は「有蓋橋の謎」。トンネル状の橋の中途で馬車が消失する奇妙な事件で幕が上がる。

 1922年はまだ馬車が現役で、派手な黄色いピアース=アロー・ランアバウトに乗るサム医師は奇異な目で見られていたけど、時の流れとともにノースモントは徐々に発展するよ。でも、町に新たな名所が出来るたびに、たいてい密室殺人が起こるんだ。

楽しそうなところだね。

一応はシリーズ物だけど、基本的に一話完結の短編集だから、まとまった体力を用意していなくても、読みたいときに気楽に読めると思う。クオリティが安定していて、気になったときにさくっと読める。いつも通りのシリーズキャラクターが、奇妙な事件をいつも通りに解決する。そのシンプルな安定感がホックのいいところだね。

ミステリに安心感を求める人っているよね。

時系列はきちんと時代に沿って未来へ流れる。サム・ホーソーン医師がノースモントにやってきた頃は、黄色い車に乗るだけで珍しい目で見られていたのに、最終巻では第二次世界大戦に巻き込まれている。

 アメリカは激動の時代を幾度も体験する。一見すると、のどかな田舎町のようでも、常に犯罪の気配は漂っている。なにより銃社会だし、物語が始まった頃はまだ禁酒法時代で、ギャングが暗躍して密造酒があちこちに蔓延っていた。移民差別や人種差別、KKKによる黒人のリンチが背景になる話もあるし、大恐慌のあおりを受けた人々も犯罪を目論んだりする。大戦下になると、徴兵制度も物語のなかに絡んでくる。

 密室殺人や不可能犯罪が主題となるミステリは、いかにも人工的な作り物らしい設定になりがちだけど、ホックの小説はパズル的なプロットのかっちりした骨格がありながら、時代描写や舞台設定に地に足の付いた現実世界との脈絡がある。そのバランス感覚がいいんだよ。「投票ブースの謎」で重要な役割を果たすカメラマンは、こういっている。

 

「写真をぱちぱち撮るのに飽きてこないかい、マニー?」
 彼は少年のように笑った。「もちろん、そんなことはありませんよ、サム先生。新聞写真はこれから流行します。《ニューヨーク・タイムズ》でさえ、第一面に挿し絵の代わりに写真を使うこともあるんですよ」
Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2000)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ』 東京創元社

 

写真というメディアがまだ物珍しかったんだね。

二話あとの「古い樫の木の謎」では、トーキー映画を作るために映画スタッフがノースモントにやってくる。この謎は本当に画が素晴らしくて、飛行機からパラシュートをつけて飛び降りたスタントマンが、地面に降りたときは首を絞められて死んでいるんだ。飛行機の操縦士は、操縦しながら殺せたはずがないし、飛び降りた時点で死んでいたなら、パラシュートは開けないはずだ。犯人は、衆人環視の空中でどうやって殺害したのか?

 このように、近代化による社会の技術的発展とミステリの仕掛けがなめらかに連動して、短編同士のゆるやかな繋がりのなかで、ノースモントという町の時代の空気感が立ち上がってくる。〈サム・ホーソーンの事件簿〉は、創元推理文庫でⅠ~Ⅵ巻まで出ている。総計七二話の中から、おすすめの三話を紹介しよう。
 
 Ⅰ巻より「十六号独房の謎」

ノースモントで逮捕された“イール(うなぎ)”と呼ばれる指名手配犯の詐欺師が独房から消え去ってしまう。舞台の留置所は新築で、抜け穴が作られる暇はなかった。二階全体が牢獄になっている。独房個室の扉、一階の事務所に出るための扉、事務所にいるレンズ保安官の監視。強固に施錠された三重の密室を、犯人はどうやって突破したのか?

なんだか聞いたことあるタイトルだな。

ジャック・フットレル「十三号独房の問題」という傑作短編のパロディだ。こちらも脱獄を主題にしたミステリだね。脱獄テーマの話は、殺人事件のような因縁めいた動機が絡まないおかげで、純粋な遊戯感覚があるのが特徴だ。どっちもおもしろいよ。

 
 Ⅱ巻より「オランダ風車の謎」

風車内で焼かれた男が言い残したのは「ルシファー」という悪魔の名前だった。通り道の雪原には被害者当人の足跡しか残されていない。いわゆる“雪密室”状況だ。悪魔の火の玉に身が包まれたと謎の証言をする男。後日、またも風車内で別の人物が焼殺される。今回も、風車までの足跡は被害者のものしかない。犯人はどうやって雪密室に出入りしたのか?

この手の雪密室は、密室殺人のように完全密閉された環境ではなく、唯一の出入口から犯人が出入りした痕跡が残されていない類の不可能状況を扱うものだね。

トリックがうまく考えられているだけではなく、犯人の動機が明かされたときの呆気にとられるような凄みが、群を抜いて素晴らしい。密室ミステリの魅力は、トリックだけではない。異様なホワイダニットに説得力を与えるための優れた装置でもあるんだ。
 
 
 Ⅳ巻より「革服の男の謎」

サム医師はノースモントに現れた、都市伝説通りの姿をした“革服の男”と真夜中の散歩をして、宿屋に泊まる。後日、男は消えていた。サム医師が道中ですれ違った人物、会話をした踏切番の男、宿屋の店員たちはみな、サムと一緒にいた革服の男を「見ていない」と証言する。三箇所に点在する目撃者には、なんの接点もなく、共謀して嘘をつく理由も考えられない。革服の男はいったい何者で、どうやって目の前にいながら消失できたのか?

狐につままれたような話だね。

密室もなにも出てこないけれど、不可能の度合いはずば抜けていて、実はシリーズの中でいちばん好きな話かもしれない。冗談のような怪談のような、居心地のわからない愉快な気持ちになる奇妙な真相を含めて、特におすすめしたい短編だ。

 

 


ホックの魅力が、なんとなくわかったかな。コンセプチュアルな謎の提示と、魅力的な解決、三十ページ程度で終わるシンプルな紙上のマジックをいつでも味わえる。密室殺人や不可能犯罪に興味がある人には、ぜひ手にとってほしい作家のひとりだ。
 ところで、密室殺人に興味がある人は、密室殺人の話を書くメカニズムについても興味がある人が多いと思う。どうやってミステリ作家たちは、不可能と思しき現象を成し遂げてきたのか? 私はときどき、推理小説の習作をいくつか書いてきたんだけど……

鳴かず飛ばずだけどね。

エドワード・D・ホックを読むにつれて、密室トリックの原理に興味を抱いた私は、自分なりにその手法を調べてみた。本稿では、これまで為されてきた密室殺人の研究を概観的に整理して、密室トリックの原理を系統別に整理する。そして、ホックの小説が密室トリックを具体的にどう用いているのかを、自分なりに説明してみようと思うんだ。
 この記事を読めば、密室殺人に用いられる基本的な原理を理解することができる。あくまで理論上は、どんな密室殺人の話も書くことができるようになるはずだ。

今回の記事、全面的にネタバレ注意だよ。

 

 

2.密室トリック分類の再整理

ここからは、ネタバレを含むかもしれないよ。物語の真相と作品個別のタイトルを直に結びつけるわけではないけれど、密室トリック全般に関する構造的なネタバレがある。

なんのこっちゃ。

密室殺人を扱ったミステリには、そのトリックの原理を解明・整理する〈密室トリック分類〉が歴史的に試みられてきた。

 これから、推理小説で用いられる密室トリックの分類を検討して、その系統を整理する。要するに、あなたがこれから読むかもしれない密室ミステリの真相が、抽象的にではあるけれど、ほとんど確実に割られることになる

つまり、ミステリに用いられる密室殺人の原理を知らずに純粋に楽しみたい人は、ここから先は読まないほうがいいってことね。

不純なほうが楽しいこともあるよ。暗黒面の力は素晴らしいからね。

 

 


この記事、地味に長いよ。ここから個別の密室トリックの検討に入るけど、忙しい人は「《くらやみお姉さんの新・密室トリック分類》」が出る部分までスクロールすれば、完成した密室トリック分類を見ることができるよ。

 


 

 

そもそも、推理小説で描かれた密室トリックのすべてを整理なんてできるの? これまで沢山のトリックが書かれてきたわけでしょ。そのすべてを読んでる人はいない。

でも、使用する原理は限られているから、これまでいくつもの密室トリック分類が考案されてきたんだ。

 そんなわけで、密室トリック分類四銃士を連れてきたよ。

密室トリック分類四銃士

 

 

 

――密室トリック分類四銃士――

 

まずは、『三つの棺』に収録された、ジョン・ディクスン・カーの名高い「密室講義」だね。

 

 

ジョン・ディクスン・カーといえば、不可能犯罪の巨匠として知られているね。密室殺人に関するミステリといえば必ず名前が上がる。いまの僕の名前の由来でもあるよ。

これは評論的性格をもった文章ではあるけれど、実は評論ではなくて、『三つの棺』という推理小説内の登場人物が、作中で密室トリックを分析しているんだ。

 

「これから講義をする」フェル博士は頑とした態度で言い渡した。「探偵小説で“密室”として知られる状況の一般的な仕掛けと、発展形態について。おっほん。反対する者はみな、この章は飛ばしてよろしい。おっほん。まず諸君! 過去四十年にわたって驚くべき小説で精神を鍛えてきた私は、次のように言うことができる――」
「ですが、不可能状況を分析するときに」ペティスが割りこんだ。「どうして探偵小説を論じるのですか」
「なぜというに」博士が素直に認めた。「われわれは探偵小説のなかにいるからだ。そうでないふりをして読者をたぶらかしたりはしない。探偵小説の議論に引きこむための念入りな言いわけなど、考えるのはよそう。隠し立てせず、もっとも高貴な態度で本の登場人物であることに徹しようではないか」
Carr, John Dickson;加賀山卓朗訳(2014)『三つの棺』 早川書房 強調引用者

 

メタ発言だ。

そういうギャグは昔からあったんだね。

「驚くべき小説で精神を鍛えてきた」って普段から使ってみたい言い回しだな。僕は最初に読んだときびっくりしたんだけど、ディクスン・カーの描く探偵像って特殊だよね。カーのシリーズ探偵の、フェル博士やヘンリー・メリヴェール卿って、酒飲みでげらげら笑う陽気な巨漢で、これまでの探偵のイメージになかったな。

 

 

お次は、『続・幻影城』収録の江戸川乱歩「類別トリック集成」と、ロバート・エイディの密室研究本『Looked Room Murders』における「Analisys of Solutions」という章の、二十種類の密室トリック分類。

 

 

江戸川乱歩ってミステリ評論も書いてたんだね。

実作よりこっちが面白いという説もある。特に「類別トリック集成」はミステリを書こうとしている人の有名なネタ本で、読むと古典タイトルと結びついたトリックのうんざりする量のネタバレを喰らうよ。暗黒面に踏み込む覚悟なしでは絶対に読んではならない。古典ミステリの「読んでないけどオチは知ってる」状態は、だいたい類別トリック集成のせいであることが多い。

 密室トリックの項目は、カーの「密室講義」の分類を基礎にしているけれど、ところどころ乱歩が蒐集・考案した別のトリックも入っている。類別トリック集成は列挙的なトリック分類で、マニアは好きだけど、辞書みたいな読み味なので、通常の読み物としては『探偵小説の「謎」』の方をおすすめするよ。こっちは青空文庫にも入っている。

www.aozora.gr.jp

ロバート・エイディは英国出身の密室ミステリ蒐集家だね。

密室研究本『Looked Room Murders』では、2000作以上の密室ミステリとその解明が紹介されているよ。これが母語で読める人はうらやましいな。

お姉さんは英語がろくに出来ないのに、あわててこの本を買ったんだよね。

東京創元社! 見てますか! 〈創元密室文庫〉を作って、ここに載ってる本を片っ端から訳してください!

買い占めるのお姉さんだけじゃないかな。

ブライアン・スクピンの補遺も買ったよ。

 

冒頭に、我孫子武丸『8の殺人』、「人形はテントで推理する」が載ってる!

島田荘司もいるよ。その隣に城平京が載ってる。

 

江戸川乱歩とロバート・エイディの密室トリック分類は、カー「密室講義」の影響が濃密だけど、天城一の密室犯罪学教程』は、ちょっと毛色が違う。数学者のミステリ作家が作った、密室トリックの概念的な分類だ。

 

 

ごく最近、宝島社から文庫化して手に取りやすくなったね。

類別トリック集成と同様、有名古典の密室ミステリ作品のネタバレを大量にしているから、これも読むには注意が必要だよ。


 

いろいろ密室トリック分類があるみたいだけど、お姉さんはどれを使うの?

まず、ロバート・エイディの分類を使う。ディクスン・カー「密室講義」はエポックメイキングで面白いんだけど、当然ながら『三つの棺』自身に用いられるトリックが載っていないとか、やや散文的で扱いづらい側面もあるから、「密室講義」の系譜かつ整理されたエイディ分類に頼る感じだね。エイディ分類と、天城一の概念分類を参考にしつつ、乱歩「類別トリック集成」からも細かい抜けを補う。あとは適当にいい感じにしていくよ。

 

 

さて、ロバート・エイディの「密室解法の分析」は、密室トリックを以下の二十項目にまとめている。

 

密室殺人については、ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』、クレイトン・ロースン『帽子から飛び出した死』、H・H・ホームズ『密室の魔術師』などが主要な論考である。それらの論考からは、密室を突破する20種類ほどの異なった方法が見出される。
 
 ①事故。
 ②自殺。
 ③遠隔操作――毒物、ガス、あるいは自身の手で死ぬように誘導される。
 ④機械仕掛け、その他の装置類。
 ⑤動物トリック。
 ⑥外部作用を内部作用に見せかける(例:窓から密室内に短剣を投擲する)。
 ⑦被害者は事前に殺されたが、殺害後に生きているように見せかけられた。
 ⑧被害者は事後に殺されたが、殺害前に死んでいるように見せかけられた(例:最初に部屋に入った人物による早業殺人)。
 ⑨被害者は室外で負傷し、室内で死亡した。
 ⑩室外から、ペンチや糸などを用いて、鍵や掛け金、ドアの把手などを操作する。
 ⑪ドアや窓の蝶番を外したり、また締め直したりする。
 ⑫窓ガラスを取り外したり、交換したりする。
 ⑬曲芸トリック。
 ⑭ドアは外部から施錠されたり、あるいはドアストッパーで疑似施錠されている。再入室時に、鍵をすり替えたり、掛け金を挿入する。
 ⑮ドアは外部から施錠されている。再入室の前に、鍵を室内に戻す。
 ⑯その他の方法で、ドアや窓などに仕掛けをする。
 ⑰秘密の抜け穴、スライド式パネルなど。
 ⑱密室が破られた時点で、犯人はまだ室内にいた。
 ⑲明白に監視された視線の密室で殺人が起きたとき、その犯行時刻中のアリバイが犯人に提供された。
 ⑳その他の扮装トリック(変装などのなりすまし)。
 
Adey, Robert C.S. ; Skupin,Brian.(2018). Locked Room Murders Second Edition revised / Locked Room International, p.327 より個人訳

 

英語が苦手なくらやみお姉さんの翻訳だから、あまり信用しないように。

特に、項目⑲の翻訳が自信ないです。"Alibi provided while the murder was committed in an apparently guarded area. "ってどう訳すればいいんですか?

国書刊行会から出ている〈世界探偵小説全集〉25巻のデレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』の、森英俊の解説文に、このロバート・エイディの密室トリック分類の翻訳が紹介されているみたいだね。

それも読んだけれど、ちょっと文意がとれませんでした。有識者助けてください。

ともかく、密室研究家だけあって、それなりに網羅的な分類だね。素人がとっさに思いつく程度のアイデアはおおよそ入っている。

これはこれでいいんだけど、まだ列挙的で、概念的には整理されていない感じがするんだよね。

 たとえば、「⑦被害者は事前に殺されたが、殺害後に生きているように見せかけられた」「⑧被害者は事後に殺されたが、殺害前に死んでいるように見せかけられた」は時間差トリックの殺人だけど、「⑭ドアは外部から施錠されたり、あるいはドアストッパーで疑似施錠されている。再入室時に、鍵をすり替えたり、掛け金を挿入する」は施錠に関する時間差トリックと、疑似施錠のトリックが未整理で並んでいる。

 そして、「⑰秘密の抜け穴、スライド式パネルなど」は抜け穴系のトリックだけど、「⑮ドアは外部から施錠されている。再入室の前に、鍵を室内に戻す」はおそらく鍵を戻す方法に関する抜け穴系のトリックになる。こういう諸トリックを、概念的な系統別にまとめてみたいんだよ。

「その他」「など」が多いのも気になるね。

たとえば、ドアや錠前の種類ごとに密室分類に項目を追加したら煩雑になりすぎるから、エトセトラに頼るのは仕方ないんだけど。でも、密室トリックの分類として、どういう基本概念が用いられているかを説明すれば、新たに登場するトリックも、どこに分類できるかを事前に提示することができるはずだ。

 

天城一「密室犯罪学教程 理論編」では、密室トリックを以下の九項目に分類している。「密室作法〔改訂〕」にも同種の分析がある。

 

①抜け穴密室
②機械密室
③事故/自殺/密室
④内出血密室
⑤時間差密室(+)
⑥時間差密室(-)
⑦逆密室(+)
⑧逆密室(-)
⑨超純密室

天城一日下三蔵編(2020)『天城一の密室犯罪学教程』 宝島社 より抜粋

 

よりコンパクトに整理されている印象だね。

天城分類一つ目の「抜け穴密室」は、密室空間と思われた空間に、実は抜け穴があるものだ。犯人が出入りするもの、凶器が出入りするもの、人間は出入りできない細かい穴だが動物が出入りして殺人を達成するもの、施錠道具が出入りするものなどが考えられる。
 エイディ分類では、

「⑤動物トリック」

「⑥外部作用を内部作用に見せかける」

「⑰秘密の抜け穴、スライド式パネルなど」

 が、該当する。人間が通れないと思われた経路を、意外な曲芸で突破する方法なども入ると考えれば、広い意味で「⑬曲芸トリック」も該当するだろう。
(室外から施錠した鍵を、なんらかの抜け穴から再入室前に室内に戻す⑮も、概念的にはここに入るかもしれない……でも、天城分類では違うんだけどね)

天城分類二つ目の「機械密室」は、なにかの機械的な装置類を用いた物理的なトリックで施錠あるいは殺人を成し遂げるものだね。

エイディ分類は、妙に機械密室の種類が多いんだよね。まずは「④機械仕掛け、その他の装置類」だけど、施錠に関する様々な方法を含めれば、
 「⑩室外から、ペンチや糸などを用いて、鍵や掛け金、ドアの把手などを操作する」
 「⑪ドアや窓の蝶番を外したり、また締め直したりする」
 「⑫窓ガラスを取り外したり、交換したりする」
 「⑯その他の方法で、ドアや窓などに仕掛けをする」
 が該当すると思われる。「機械密室」が殺人方法を指しているのか、施錠方法を指しているのかは実は曖昧で、分類者によっていろいろだ。

「物理トリック」「機械トリック」でひとまとめにされたりするけど、室内の装置を使って施錠や殺人をするトリックと、密室の環境自体に仕掛けをするトリックって、別物なんじゃないかという気もするな。

私の密室分類では、そこは区別します。詳しくは後述。細かい話だけど、物理/機械トリックって呼び方をすると、郵便受け用のドア穴に手を突っ込んで解錠・施錠するような現実の空き巣にも使われたトリックの位置付けが微妙になるんだよね。「手って機械?」ってなるから。私の分類では「施錠道具」と呼ぶことで解釈を広げて切り抜けている。

天城一は「機械密室」の項目の記述がそっけないね。「乱歩の《類別トリック集成》には1ダースの例が挙げられていますが、判決は幼稚たるを免れないというものです」と書いてある。ミステリ漫画なんかだと、物理トリックは映えるけどね。画になる犯罪だから。

でも、機械的な物理トリックは趣味がわかれるんだよね。実は、私はあまり好きではない。心理的な誤認を含むトリックのほうがずっと面白いと思う。

そうなんだ。密室は好きなのに?

物理トリックが退屈になりがちな理由には、密室の問題がストーリー上のプロットと独立してしまうことがある。たんに施錠方法のバリエーションを作るだけでは、登場人物の個人的な動機とトリックを用いる理由が連動しないから、話が面白くならない。問題が独立していて、外部の出来事や登場人物と関連性がなくなる。誰がやっても同じ。それが一番つまらない。
 だいたい、ドアの種類や錠前の構造がどうとか小説で読んでもイメージが難しいから基本的に「知るかよ」と思うし、それが実際に可能かは具体的に実験しないと確言できないことだから、読者にわかるわけがない。登場人物たちの心理的な誤認によって密室が生まれているなら、読者も謎解きに参加しようがあるけれど、物理トリックはたいがい作者の自己満足の世界に置いてけぼりになる。そもそも、なんでそんな方法で密室殺人をする必要があったんだよ、夜道でデカい石で後頭部を殴って逃げればいいだろ、という気持ちになったりする。

ふ~ん。でも、ミステリなんて全部そうじゃない? 

本当に意味もなく豪快なやつはときどき面白かったりするんだけどね。でも、根本的には下品なことだと思う。殺人行為に過度に無意味な方法をとるのは下品だよ。登場人物の動機の謎は、繊細な節制によって生まれている。

 トリックのある小説こそ、節制の美徳が推理小説にもたらしてきたものを忘れてはいけないと思うんだ。トリックには犯人にとって何らかの利益をもたらす現実的な意味がなければならない。無意味なトリックなどあってはならない。動機を用意するまでがプロの仕事だ。

お姉さんはその点けっこう保守的なんだね。そんな人がどうして密室に執着しているのかわからないけど。

納得したいし驚きもしたい。大いなる矛盾を抱えて生きているんだよ。

天城分類の三つ目、「事故/自殺/密室」は、文字通りだね。被害者が室内から施錠したあと、事故死したり自殺したりすれば密室になる。当たり前じゃんって思うけど。

でも、これは書いてみると面白いんだ。まず、事故や自殺が一見すると殺人にみえるためにはどうすればいいか、という複雑なシチュエーションを考える必要が生まれる。殺人にみえる痕跡が生まれたり、痕跡を事後的に変化させたり、凶器の消失トリックを併用する例が考えられる。

 たとえば、被害者が氷のナイフで自殺して、凶器が解けて消えれば殺人者が持ち去ったようにみえるよね。また、その被害者が「自殺をするわけがない」という状況のもとで実は自殺していたなら、意外な動機の謎も絡めることができる。典型例だと、誰かに他殺されたように見せかけるために、込み入った自殺をする。
 エイディ分類だと、まず「①事故」「②自殺」が該当する。特殊な方法で自殺・事故に誘導する殺人も含めれば、「③遠隔操作――毒物、ガス、あるいは自身の手で死ぬように誘導される」も入ることになる。

天城分類の四つ目、「内出血密室」って何?

必ずしも内出血である必要はないから、この命名には問題があると思うけど。とにかく、実は即死ではなく死亡まで時間差があって、被害者が部屋を施錠してから死ぬ場合だ。

 

 

 現実に起こりうるシチュエーションだし、施錠の強度も高い。被害者が犯人をかばって密室に駆け込んだとか、即死と思われる死因に特殊な理由で耐性があったとか、さまざまな応用方法がある。エイディ分類だと「⑨被害者は室外で負傷し、室内で死亡した」だね。

そういうのが時間差密室じゃないんだ。だったら、天城分類の五・六つ目の「時間差密室(+)/(-)」はなんなの?

これが密室初心者にはもっとも難解な概念だと思う。まず、密室には、施錠が行われて封印された時点と、部屋が開かれて密室が解除された時点があるよね。この〈封印-解除〉の密室時間帯だけ、その空間は密室になっている。

 

 

そうだね。

ここに付け入るすきがある。密室時間帯に行われたと考えられた犯行が、実際には、密室時間帯〈封印-解除〉封印前に行われているもの、解除後に行われているものが、それぞれ時間差密室(+)時間差密室(-)になる。

 

 

それだけ聞いてもよくわからないな。

まず、時間差密室(+)……密室封印前に被害者が殺されていた。

 このとき、よくある場合は、死亡した被害者を生者にみせかけることで、密室時間帯に被害者が殺されたかのように偽装する。さらに、犯人が密室時間帯に室内にいたように偽装することもある。死んだ被害者を生者に見せかける方法は、変装してアリバイ工作をするのがわかりやすい例だね。あるいは、映像を投影するとか、録音装置で話し声を偽装するとか、その手のものだ。

でも、この方法はわかりやすい欠陥をふたつ抱えているね。まず、被害者がすでに死んでしまっているから、施錠の問題が解決されない。監視による「視線の密室」なら、時間差密室トリックだけで成立するけれど、さらに部屋を施錠したいなら、別の物理トリックを併用するしかない。単体では、どうしても密室の強度が弱くなってしまう。そして、死者を生者にみせかけるための装置類が、室内に残されてしまう場合がある。

時間差密室トリックは、犯行時刻を誤認させる一種の心理的トリックだ。でも、天城一は時間差密室(+)に関して、「「心理的」の俗信に反して、この型の密室犯罪は案外に機械的なトリックに頼ることになりがちです」と指摘している。

一長一短だね。

でも、時間差密室(+)は、想定される犯行時刻と実際をずらして犯人がアリバイを作るというわかりやすい目的があるから、動機の面では書きやすくはあるんだ。エイディ分類では「⑦被害者は事前に殺されたが、殺害後に生きているように見せかけられた」になる。翻訳に自信がないけど、⑲は時間差密室(+)で必要になるアリバイ工作の話をしていると思う。また、扮装に関する「⑳その他の扮装トリック」は、当然ながらいろいろなシチュエーションに使えるけれど、まずは時間差密室(+)に用いやすいことがわかる。

対して、密室の封印解除後に殺人をするのが、時間差密室(-)だね。

いわゆる「早業殺人」と呼ばれることが多い。エイディ分類だと「⑧被害者は事後に殺されたが、殺害前に死んでいるように見せかけられた」。基本的には、まず被害者が自ら部屋を施錠する。その密室が開けられたとき、なんらかの理由で被害者が死亡しているとみなされる。その後、本当はまだ生きている被害者を、おもに第一発見者が素早く殺してしまう。時間差(+)の逆で、この場合は、生者を死者に偽装する方法に、状況設定の余地がいろいろあるわけだね。強めの睡眠薬で昏睡させるとか、被害者自身が犯人に協力して死んだふりのドッキリをしているところを本当に殺すみたいなパターンがわかりやすい。

その死に方、嫌だな。時間差密室って、想定される犯行時刻と実際の犯行時刻をずらすのが基本だけど、検死がきちんと行われればすぐ発覚しそうな気もするね。

天城分類の七・八つ目、「逆密室(+)/(-)」は、実は問題が多い概念なんだけど……。

どういうところが?

あとで説明する。まず、密室を構成する基本要素がある。例外もいろいろ考えられるけれど、基本的には「鍵・被害者・犯人・凶器・痕跡・施錠道具・密室環境」の七つだ。
 密室殺人が成立していると考えられるとき、その施錠された室内には通常、その部屋の鍵と、被害者の死体がある。凶器や殺人の痕跡も室内に残されていることが多い。そして、犯人は室外にいると考えられる。

普通はそうだね。

それらの諸要素を、なんらかの方法で室内/室外に挿入・排出するのが、逆密室トリックになる。

 密室内に入れるのが、逆密室(+)だ。たとえば、室外に死体がある状況から、部屋にある抜け穴から密室内に死体を入れたり、密室解除後に時間差で死体を入れる方法が考えられる。死体を入れる方法といえば、大掛かりな投擲をするとか、細かく分割した死体を穴から入れる方法などがある。

 死体でやるのは大掛かりだから、鍵のほうがより現実的な方法になる。鍵を使って室外から部屋を施錠したあと、なんらかの方法で鍵を室内に戻す。ドア下端などの抜け穴から入れる方法や、密室解除後に鍵をすり替える方法がある。カーの「密室講義」では、室外から鍵で施錠した犯人が、死体の発見者となって、鍵を握った手で窓を割って室内から鍵を発見したふりをする、錯覚を利用したトリックが紹介されている。
 エイディ分類では、

「⑭ドアは外部から施錠されたり、あるいはドアストッパーで疑似施錠されている。再入室時に、鍵をすり替えたり、掛け金を挿入する」

「⑮ドアは外部から施錠されている。再入室の前に、鍵を室内に戻す」

 が、該当する。でも、⑭に部分的に含まれる疑似施錠トリックは、逆密室トリックだけでは説明しにくい。

逆密室(-)は何なの?

密室の外部に密室の構成要素を排出するもの。たとえば、密室内から被害者を室外に出せば、密室内にいた被害者が消えてしまう、特殊な消失現象が生まれる。天城一は指摘していないけれど、密室内で殺人をした犯人を、特殊な方法で室外に排出するトリックもある。たとえば、密室内の殺人犯が、浴槽で自分に薬品をかけて身体を溶かして、そのまま自分を下水道に排出する。これは極端な例だけど、基本発想としてはそういう感じだ。

逆密室(-)では、鍵を室外に出すトリックは使えないんだね。室外に鍵があれば部屋を開けられるから、密室殺人でもなんでもない。

そうとも限らないよ。ドア内部からしか解錠できない機構も想定できる。この鍵がなんらかの方法で室外に排出されたら、やっぱり不可能状況になるよね。

この逆密室トリックって、なんか概念として中途半端な気がするな。だって、密室内に鍵を入れるとき、穴から入れる方法は「抜け穴密室」のバリエーションで、密室解除後に鍵を素早く入れたりすり替える方法は、「時間差密室(-)」の方法を、殺人ではなく施錠に応用したものでしょ? すでに登場した方法が、ここでは曖昧に混用されている。

そう! そこが第一の大きな問題点だ。

ところで、密室内外に「密室環境」を出し入れするってトリックが、いまいちよくわからないな。

これは本当に境界例なんだ。密室を構成する錠前・ドア・窓などを事前・事後に交換するようなトリックを指す。境界面自体を交換する場合があるので、密室の内外という分類では、きれいに説明しにくい場合が多いけれど、原理的には大きく変わらない。ちょっとややこしいので、あとで説明する。

九つ目、天城分類最後の「超純密室」は、名前がかっこいいね。

そのわりに原理をきくと拍子抜けだけど。部屋に殺人犯が実際に出入りして、その部屋が監視されているのに、犯人が意識からすり抜けてしまう事例を指す。その密室は、監視によって成立する「視線の密室」――心理的な密室で、犯人が監視者の意識下の心理的盲点に入る意外な犯人である、というのが超純密室の解決策になる。江戸川乱歩の類別トリック集成に載っている、意外な犯人トリックに、これに応用できるアイデアが含まれる。

 

〈類別トリック集成における、意外な犯人トリック〉


 ・探偵が犯人
 ・裁判官、警官、典獄が犯人
 ・事件の発見者が犯人
 ・事件の記述者が犯人
 ・犯行不能と思われた幼年又は老人が犯人
 ・不具者、病人が犯人
 ・死体が犯人
 ・人形が犯人
 ・意外な多人数の犯人
 ・動物が犯人


 江戸川乱歩(2014)『江戸川乱歩全集 第27巻 続・幻影城』光文社 pp.174-7より抜粋

 

もちろん使えないものも、これ以外の作例も沢山ある。超純密室に用いられる意外な犯人トリックには、大雑把にいって、

 

  • その密室環境下にいるのが自然で、あまりに自然すぎて意識されない
  • その犯行を為すことが不自然で、あまりに不自然すぎて意識されない


 という二種類があるようだ。この二種類を兼ねていれば、さらに意外性の強度が高くなるかもしれない。

これは、エイディ分類には入るのかな?

ちょうどいいのがないかもね。もしかしたら、⑲がその種のことを意味しているのかもしれないけれど、よくわからない。「⑤動物トリック」は意外な犯人トリックの一部になるけれど、天城一はより包括的な心理的盲点を想定しているようだ。

 

 

 

 

ここまで、天城一の密室分類とロバート・エイディの密室分類を比較してきた。

 天城分類の「超純密室」は、おそらくエイディ分類には含まれていない。そして、エイディ分類に含まれていて、天城一の密室分類には含まれていないものがある。まず、扮装に関するトリックが含まれていないね。もうひとつ、重要なのがあって……

エイディ分類の「⑱密室が破られた時点で、犯人はまだ室内にいた」だね。

これに関しては、おもしろい挿話がある。前述の、デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』巻末の、森英俊の解説にある「密室構造学」の章から引用する。

 

 海外でも「密室講義」は大きな影響力を発揮しており、クレイトン・ロースンは『帽子から飛び出した死』において「講義」を紹介しながらフェル博士の分類に新たな一項を付け加えているし、H・H・ホームズ(アントニイ・バウチャーの別名義)がカーに捧げた『密室の魔術師』においても、フェル博士の分類にあてはめながら事件の検討がなされている。(中略)なお、ロースンが『帽子から飛び出した死』の中で「密室講義」に付け加えた一項というのは、次のようなものである。
 
 第三 完全に密閉された部屋の中で犯罪が行われたが、犯人はそこから脱出していない。犯人はドアが破られるまで室内に隠れていて、部屋が調べられる前に外に出る。
 
 (注)ロースン(の代弁者たるグレイト・マーリニ)は、密室殺人のパターンは他にありえないと断言しているが、その自信はスティーヴン・バーの短編「最後で最高の密室」で打ち破られることになった。ここで紹介するわけにはいかないが、バーの作品によって第四分類ともいうべきパターンが提示されているのである。ちなみに、バーの作品を読んだ後に筆者は第五分類なるものを考案したことがあって、それはこういうものだ。「完全に密閉された部屋の中で犯罪が行われたが、犯人はそこから脱出していない。犯人は、人間とは思われない姿でそこにいたのだ。」まあ半ば冗談なのだが、誰か作品化してくれる人はいないだろうか。
 
Smith, Derek;森英俊訳(1999)『悪魔を呼び起こせ』 国書刊行会 強調引用者

 

ロバート・エイディは、このロースンの指摘を参照しているんだ。ディクスン・カー「密室講義」を起点として、作品世界ごとに隔絶している筈の登場人物たちがメタに議論を戦い合わせる事件が実際に起こった。網羅的な分類には、ひとこと言ってやりたくなるものらしいね。ミステリの可能性はそれだけじゃないぞって。

密室が破られたあとで入れ違いに脱出するって、タイミングさえよければ現実にもできそうな感じがするよね。

単純すぎて盲点になっていたんだろうね。ドア裏に隠れるだけが手ではないよ。天井に張り付いて、壁を渡っていくこともできる。

人殺しなんかやめてSASUKE出たほうがいいよ。

密室内に犯人がいたトリックには、入れ違いに室外へ脱出するだけではなく、密室解除者たちの一行に紛れて、二番目ぐらいに入ってきた人を装うとか、床下収納みたいな室内の特殊な隠蔽空間に隠れて、ほとぼりが冷めた頃に脱走する手口もある。将来的には光学迷彩も現実的な手口になるかもしれない。

 超純密室と合わせて、私はこうした犯人隠蔽のトリック全般を「意外な犯人」「意外な隠遁」「意外な脱出方法」「意外な誤認」の四項目にまとめてみた(人間を別対象に誤認するトリックは、のちに紹介する「物人誤認」トリックの一部と被るけれど、犯人隠蔽はトリック分類上、重要な項目なので、特筆することにした)。
 意外な脱出方法には、密室解除後に脱出するだけでなく、抜け穴密室のバリエーション、普通なら逃げられないと思われる経路から脱出する方法も含む。抜け穴から出る、特殊な方法で身体を小さくして出る、焼却・溶融・細分化して排出、脱出不可と想定される高所からロープやパラシュートやクッション、パルクールで降りるなど。エイディ分類「⑬曲芸トリック」がここで利用できる。

 最近はジェットスーツを使って空を飛ぶ方法があるから、足跡のない雪密室なんて過去の遺物になるかもしれない。この手のトリックで個人的に気に入っているものは、高所から飛び降りて脱出した犯人が、そのまま死ぬものだ。死体は何らかの理由で別の場所に移動される。犯人は犯行後も生きているという先入観が盲点になりやすいからね。

森英俊の指摘したような、犯人を人間以外の対象に誤認するって、具体的にはどんな方法があるのかな。

全身白タイツで白い壁の前に隠れるとか……

そんなアホに殺されたらたまったものじゃないな。

扇風機の羽って回転していると一枚一枚が見えなくなるよね。それを利用して、犯人が自分を巨大プロペラに巻きつけて高速回転することで、円盤状の模様にしか見えなくなるトリックを考えたことがあるんだけど……。

なんでそんなことするの?

その点はおいおい考えよう。

お姉さんの小説が世に出ない理由の一端がわかった気がするよ。

この「犯人を(人間以外の)別対象に誤認させる」森英俊の第五分類の密室の作例は、エドワード・D・ホックの〈サム・ホーソーンの事件簿〉の中にも存在しているよ。そっちはまだ現実的なトリックだ。

ミステリ作家がおバカなトリックに挑戦しているときは、人知れず「密室講義」に挑戦しているのかもしれないね。

マニアにしか伝わらない涙ぐましい努力があるんだ。

ところで、このクレイトン・ロースンが提示した「密室解除後に犯人が脱出する」トリックって、実は時間差密室トリックのバリエーションになっているよね。

いいところに気がついたね。密室殺人が起こったと考えられるとき、犯人は密室時間帯〈封印-解除〉の最中に現場を出入りしたと想定される。でも、実際には密室解除後に脱出する方法だってあるわけだ。これは、抜け穴を利用して脱出する密室トリックとは概念的には別物になる。空間の抜け穴というより、時間の抜け穴をついて脱出している。

ということは、密室封印前に侵入するトリックもあり得るよね。

うん。監視された密室内にどうやって犯人は侵入したのか? 実は、密室が封印される前から何らかの方法で室内に紛れていた。その後の脱出や隠蔽には別の手段を使う必要があるけれど、これも時間差密室トリックの一種となる。つまり、時間差密室トリックには、想定される密室時間帯〈封印-解除〉に対して、

  • 時間差殺人 封印前・解除後の殺人
  • 時間差施錠 想定解除前の解除/想定封印後の封印
  • 時間差挿入 封印前・解除後の鍵・凶器・被害者・痕跡・密室環境などの挿入
  • 時間差排出 封印前・解除後の鍵・凶器・被害者・痕跡・密室環境などの排出
  • 時間差侵入 封印前・解除後の犯人侵入
  • 時間差脱出 封印前・解除後の犯人脱出

 などの、多様なバリエーションが考えられる。時間差死(内出血密室)も別にあるから、密室殺人には時間差を利用するトリックが多くを占めるといってよさそうだ。

時間差施錠の、想定解除前の解除/想定封印後の封印って何?

エイディ分類の「⑭ドアは(…)ドアストッパーで疑似施錠されている。再入室時に(…)掛け金を挿入する」の部分が、この種の時間差施錠トリックになる。疑似密室が解除されたあとで施錠をして、密室時間帯はずっと施錠されていたように見せかける。同様に、疑似密室の解除前から密室状態を解除する。
 たとえば、事前にドアの掛け金を剥がしておく。殺人の発覚後、探偵たちがドアに体当たりして室内に乗り込んだとき、すでに剥がれていた掛け金が、体当たり時に剥がれたように見せかける。より素朴な方法だと、破った窓に最初に手を入れた人が、本当は開いているドアのサムターン(施錠用のつまみ)をたったいま解錠したふりをする。時間差施錠トリックは、疑似密室を密室だと誤認させる、疑似施錠トリックなどの小技を併用する場合が多い。
 でも、その他の時間差トリックの要点は、施錠された本物の密室を時間の抜け穴で攻略することだ。時間差施錠トリックの場合、疑似的な密室時間帯〈封印-解除〉の最中は実際は密室ではないから、同種の分類に含めたくない人もいるだろう。でも、時間差の誤認が生まれていることは確かだから、時間差トリックの一種とも呼びうる。この辺は好みの問題だね。ただの貫通系の抜け穴密室に、密室環境の加工・痕跡誤認を含めたものと考えても支障はない。

密室封印前・解除後に痕跡を挿入するのって、密室殺人となにか関係ある?

あるよ。たとえば、密室封印前に殺人事件と思しき痕跡を部屋に散らす。被害者は実際は別の理由で室内で事故死する。被害者の死亡と痕跡が偽の因果関係で結びつくことで、その痕跡は密室時間帯のものと誤認され、密室殺人の現象が生まれる。これは事故死系のトリックで片付けられることが多いけれど、厳密には時間差トリックも含まれているんだよね。

「時間差挿入/排出」が、いわゆる逆密室トリックの時間差トリック版だね。犯人のほうが基本的には動かしやすいだけで、「時間差侵入/脱出」と原理的には同じだ。密室内にものを出し入れする逆密室トリックには、空間的な抜け穴(抜け穴密室)を使うものと、時間的な抜け穴(時間差密室)を使うものがある。やっぱり半端な概念なんだな。

 ところで、「密室環境」に関する、時間差挿入/排出の説明が、後回しになっていたね。

最近、このトリックを使う作例が妙に多い気がするんだ。ここ数年の作例でも、有名なものが三つぐらい思い当たる。なぜこのトリックが脚光を浴びがちなのかというと、「複数のトリック分類の境界例で、既存の密室トリック分類に当てはめにくい」ということが考えられる。
 たとえば、密室の内外に諸要素を入れる「逆密室トリック」という表現では、密室を構成する密室環境の境界面はうまく密室の内外として説明できない。ドアや屋根や窓や錠前や障子などの、内外を仕切る境界面は、それ自体が内側・外側のどちらにあるともいえないから。また、時間差トリックは基本的には誤認により生まれる心理的トリックだけれど、ドアや屋根や窓や錠前などを交換するのは、通常なら物理的トリックと説明したくなる(密室環境の時間差挿入/排出は、ここでは(後の分類に登場する)「貫通系-誤認系」の心理トリックとして扱うけれど、「貫通系-加工系」の物理トリックとして扱っても、概念的に大きな支障はない)

内外の境界例であるだけではなく、心理トリック・物理トリックの境界例でもあるんだね。

また、実装する手順が複雑で、うまく一言で説明しにくい。

いろいろ微妙な例なので後回しになってたわけね。

一応いっておくと、このトリックの作例自体は昔からある。エイディ分類でも「⑪ドアや窓の蝶番を外したり、また締め直したりする」「⑫窓ガラスを取り外したり、交換したりする」の項目があるし、密室講義にも類似の記載がある。新奇なトリックではないけれど、あえて分類しようとすると位置付けに困る、ニッチな例なんだ。

マニア向けってことかな。

このトリックは、密室環境の諸要素に応用できるけれど、錠前付きのドアがいちばん説明がわかりやすいと思う。部屋Aで密室殺人が起きたと想定されるとき、殺された死体が部屋Aの内部にあって、鍵Aが室内にあり、鍵Aに対応する錠前A付きのドアAが部屋の境界面に装着されていると考えられる。
 ところが、ここでAとよく似た部屋Bが登場する。鍵B、錠前B、ドアB、とにかく密室環境Aのあらゆる要素Aと交換しうる、密室環境Bの要素Bが想定できる(Bが必ずしも密室である必要はない)これを適宜、交換してごまかす。交換した時点で挿入/排出の両方を兼ねることになる。

ややこしくなってきたぞ。

錠前付きドアの場合――時間差(+)では、事前交換だ。部屋Aに錠前B付きのドアBを接続して、鍵Bで施錠する。部屋Aには鍵Aを残す。表面上は密室だけれど、部屋Aの要素からなる密室環境としては穴のあいた非密室だ。このままでは、ドアと鍵が食い違っているので、さらに鍵を誤認させるとか、ドアを再交換するとか、ごまかしの手順がいる。
 対して、時間差(-)の場合は、錠前付きドアを事後交換することになる。部屋Aに錠前A付きのドアAがついたまま、鍵Aで施錠する。部屋A内には鍵Bをおく。殺人発覚後、ドアAを破って探偵が部屋に入り、鍵Bを発見する。探偵が死体を検分している間に、外れたドアAをこっそりドアBにすり替える。探偵は鍵Bを、ドアBの錠前Bに差し込んでみる。「間違いない――部屋Aに対応する、鍵Aのようですね」こんな感じだ。

 こうしてみると、部屋Aを鍵Aで施錠して、A室内においていった鍵Bを密室解除後に鍵Aにすり替える時間差挿入/排出トリックと、錠前付きドアAと錠前付きドアBのような密室環境の要素をすり替える時間差挿入/排出トリックでは、本質的にはたいした違いがないことがわかる。

 結局、ドアや鍵を交換した痕跡をごまかすために、さらに再交換の手順を踏むことが多いので、その場合は時間差(+)(-)の両方を用いることになる。やたらと手間の多いトリックなんだ。

ドアではなく、錠前だけを交換しても同じことができるね。

このトリックのデメリットは数え切れない。まず、密室環境を挿入・排出するという大掛かりな手間がある。殺人事件が起こる部屋のドアをごちゃごちゃ弄っているんだ。時間がかかるうえ、発見されたら言い逃れがきかない。クローズドサークル内で犯人がドアと工具を抱えてうろちょろしている絵面の間抜けさは、他のトリックの追随を許さない。そして、密室環境Aとうまいこと交換できる環境Bが存在するという、非常なご都合主義に頼っている。

 さらに、こんなトリックがうまくいくのは、細かい描写がされない推理小説だけだ。このような大掛かりな改変をしたら接合部に痕跡が残るし、ドアや壁、蝶番の接触面なども、汚れや傷跡が全然対応しない。さらに、交換した物品が証拠として、そのまま部屋A、Bや鍵の状態に残されてしまう。再交換もかなりの手間だ。

いかにも紙上の空論なトリックって感じだね。そこまでして、密室にする利点なんてある?

ただ、構築がややこしいので推理小説向きではある。たとえば、部屋の要素を三つ以上にすれば――部屋A、B、C、Dの諸要素をそれぞれ交換すれば、長編一本が持つ程度のごちゃごちゃは実現できる。手間のわりに、まるで得がないので、なぜか犯行の瞬間を発見されないアビリティを持っている犯人役にしかおすすめできない。

 

 

 

これで、すべての密室トリックが分類されたのかな?

まさか! これでは全然足りないんだよ。ディクスン・カー「密室講義」から九十年弱の時間が流れたんだ。万年マンネリ気味のミステリも少しは進歩する。これだけでは、〈サム・ホーソーンの事件簿〉に用いられるトリックでさえ漏れが出てしまう。

どんなの? 並行世界や時空の穴、ワームホールから入ってきたとかかな。

そういうのを思いついて、新たな密室トリックを考えたって言い張る人いるけど、原理的には単なる抜け穴密室にすぎないよね。

 私の蒐集・考案した分類からすると、ここまでの密室トリック分類には、大ジャンルとしても、九つは欠けているものがある。

 

  • 病死・自然死トリック
  • 外部作用トリック
  • 空間差トリック
  • 虚偽トリック
  • 疑似施錠トリック
  • 自動施錠・外部施錠トリック
  • 消滅トリック
  • 生成トリック
  • 合鍵トリック

 

「病死・自然死トリック」は、密室を内部から施錠した被害者が、病気や老衰などの事件性のない理由で死んでいたものだ。だが、死体には死因とは別の意味ありげな負傷があったり、室内にいかにも殺人らしい痕跡が特殊な理由で散らばっていたりして、さまざまな誤認の条件が揃った結果、いかにも死因が殺人にみえる。

 病死・自然死トリックが、密室内で頭をぶつけて死ぬような事故死系のトリックと違うのは、その死体が殺人の結果とみなされるには、死体発見後にさらなる改変が必要になることだ。窓からのぞいて殺人事件に誤認されたあとで、部屋が丸ごと焼かれて死因が曖昧になるとか。あるいは、密室解除後、殺人者ではない犯人が、特殊な動機のもと死体を損壊して、殺人行為が存在したかのように偽装する。いまどきの検死の技術では現実的な実装は難しいかもしれないけれど、作例は存在している。

それって、普通の殺人犯の行動とは真逆だよね。自分が殺人容疑者になる危険を犯してまで、殺してもいないのに殺人が起こったふりをする。どうしてそんなことをするの?

その逆説的な状況こそが、このトリックを面白くするポイントだ。「殺人事件が存在した」とみなされることが、状況の改変者の利益になることが、基本的な解決案になる。今回の件が自然死ではなく殺人だという疑惑さえ生まれれば、一週間後の選挙結果が大きく変わるかもしれないぞ……みたいなね。

 あえて不合理そのものの奇妙な動機を考えてみるのも面白いかもしれない。死体に深く触ってみたかったし、殺人事件の犯人と思われることで、被害者と自分の運命的な結びつきを周囲に記憶されたかった、なんてどうかな。

怖。

 

 

「外部作用トリック」は、完全に密閉された密室空間において、密室外から室内に遠隔作用しうる諸力を、殺人・事故死・誘導死・痕跡操作・施錠などに利用するものだ。壁越しの殴打、壁自体による殴打、磁力・電力・重力・熱・音などが考えられる。

 たとえば、収れん火災の影響が殺人事件にみえる現場痕跡を生むことがある。強力な磁石で差し金を操作するトリックは、誰でも一度は思いついたことがあるんじゃないかな。

 室外から室内に作用を与えうる物体のなかで、もっとも身近なものはドアノブだろうね。ノブの作動を利用して、施錠、殺人、内部装置のスイッチの起点にする方法などが考えられる。

 

 

 お姉さんは小学生の頃、学校の非常ドアにあるドアノブとサムターンをセロテープで繋いで、ドアノブを室外から動かすことで、内部のサムターンを廻して施錠するトリックを発明して、しっかり怒られたことがあるよ。

勉強しなさいよ。

情緒の発達があやふやだったから、みんなが学校で何をやってるのか、よくわかってなかったんだよ。セロテープが密室内に残されるから、問題の多いトリックだね。

部屋を密閉したままでも、室内に影響を与えられるわけだね。

いろんな応用方法が考えられるよ。クレーンで小屋を吊って傾け、差し金をスライドさせて施錠するとか。クソデカい重機でコンクリートの壁越しに被害者を轢くとか。

考えすぎておかしくなったミステリ作家の末路って感じだな。

外部作用系のトリックは、新奇なトリックではない。密室講義の頃から作例は示されている。でも、これらの諸トリックが、概念的には同種の外部作用を利用しているものだとは、なぜか整理されないことが多かった。

 どんなに大掛かりでも、原理は一緒だ。差し金を室外から磁力で施錠しようが、小屋を吊って重力で施錠しようが、本質的な違いではない。

列挙的なミステリ分類だと、概念的には同じものでも目新しいものに見えてしまう問題があるわけだね。だから外部作用系という分類が必要になるのか。

 

 

「空間差トリック」は、基本的には、ある空間Aと、別の空間Bを誤認させるものだ。クレイトン・ロースンの時代から良質な作例があるのに、なぜか密室トリック分類から漏れ続けたので、後世の作家は異常なほど多用するね。
 


 空間自体を丸ごと移動・複製・すり替え・交換するものと、空間Aと空間Bを弁別する標識をすり替えるもの、その他様々な錯覚を利用するものがある。心理的な視線の密室は、これで解決できる。

 誰も近づけない監視された箱内で死体が発見されたとき、実際には箱Aは監視から離れた後で箱Bにすり替えられたかもしれない。また、施錠された物理的密室でも、密室の解除条件が易化しているかもしれない。私たちが強力な密室Aに駆け寄ったとき、いつの間にか、Aと思しき標識がついた弱い密室Bや、間仕切り戸のあるコネクティング・ルームの非密室Cに辿りついているかもしれない。

ホテルみたいに規格化された部屋や、すり替えやすい独立した空間、個室が連なる通路、点対称な空間、回転したり駆動したりするわけわからん屋敷、建築家がよく似たふたつの建物を作っていた噂話などには注意が必要ってことだね。

 空間差の密室トリックが見逃されていた理由って、無意味に大げさで馬鹿みたいな話になりやすいからだと思うな。

でも、ちょっとした小さな空間をすり替えられると、おおっと思って興奮しちゃうんだよ。

お姉さんのフェティッシュがよくわからないよ。

天城一は「密室犯罪学教程」の中で、なぜか逆密室トリックを空間差の密室トリックと勘違いしたまま解説している。そのせいで、記述の文意が不鮮明になっている。「密室作法〔改訂〕」を読んだ限りでは、おそらく、死体を運び入れる/死体を運び出す行為が、犯行現場が密室からずれていることから空間差だと述べているのだと思う。
 でも、前述のように、逆密室トリックと呼ばれるものの実態は、抜け穴密室と時間差密室の二種類のトリックを混用した概念で、空間差トリックとは関係ないんだ。時間差トリックの密室時間帯とのズレによる誤認とは違って、逆密室トリックは密室空間には誤認がないわけだから。抜け穴の内部で殺そうが、外部で殺そうが、密室空間に空間差は生まれない。これが、逆密室という混乱した概念の問題点の第二だ。

 やはり、逆密室トリックは「抜け穴密室」「時間差密室」に分割したうえで、概念自体をそのまま抹消したほうが整理できると思う。

なにがどう逆なのかも、正直よくわからないしね。時間差の逆のつもりだったのかもしれないけれど、空間差トリックは別にあるんだったら、余計わかりにくい。

密室犯罪学教程の終講を「批判はあらゆる学問の精髄です」という段落で結んでいる天城一なら、この指摘も認められるでしょう。

「密室作法〔改訂〕」の末尾でも、天城一は乱歩のカー贔屓やトリック偏重主義の趨勢の批判をしているね。それを天城一が書いているのがおもしろいけど。

 

 

「虚偽トリック」は、そもそも密室に関する話自体に嘘が含まれるものだ。密室殺人などの不可能犯罪は、矛盾を構成する諸前提のどこかに、実際には誤りが含まれることで成立する。だから私たちはドアや窓や錠前などの物理状態を疑ってみるけれど、そもそも出来事自体が嘘という可能性は忘れがちになる。

 密室の扉前の目撃者は個人的な動機で犯人をかばっていたり、実はそいつ自身が犯人かもしれない。現象総体が嘘というだけでなく、たとえば「合鍵は存在しない」という前提らしき情報は、一部の登場人物が言ってるだけで、実際は普通にあるかもしれない。関係者の意図的な作話であったり、叙述トリックによる情報誤認世界レベルの錯誤(現実世界と異なる規則や矛盾が容認される、仮想世界、作中作、SF・ホラー・ファンタジー・その他の特殊設定的な別ジャンルの介入)なども考えられる。

くっだんね~~~~。

くだらないから忘れられていたところはあるね。非意図的な錯覚・幻覚もある。推理小説では魔術的な降臨や不可能な侵入には犯人の計略が関わっていることが多いけれど、現実には多様な脳の知覚処理によって説明がつくほうが多いだろう。ときどき、本当にその手の説明が真相として提示されることもある。人間は実際に幻覚を見るものだからね。

僕ね、とある安楽椅子探偵ものを以前に読んでいたんだけど。いろいろ不可能な状況が提示されたあとに、探偵役が「それはあなたの作り話ですね」って解決を提示して終わるの。現実的な解決案かもしれないけど、時間を返せって思っちゃったな。

すれたミステリマニアは、その手の「現実はこんなもんだよね」って冷や水を浴びせられるような体験にも興奮してしまうらしいよ。

ひどいカルマを背負ってるね。

傷つくことでしか満たされない欲望があるんだよ。

怖。

虚偽トリックは、単体ではくだらないけれど、使い方次第では捨てたものじゃないんだよ。事件総体ではなくて、一部にさりげなく使うと効果的なんだ。たとえば、事件Aと類似した事件Bが起こる。事件Aは実際には登場人物の偽証で、事件Bは実際に起こった。どちらも密室状況だけれど、さりげなく密室の解除条件が変わっている。ABが連続犯罪に見えるおかげで、事件Aが作り話の可能性を忘れてしまう。で、AB両方が起こったと考えると、どちらも解けなくなる。

 その証言がごく自然にみえるように、その他の事件を適切に配置したり、その人が絶対に嘘をつくわけがないと思わせるようなシチュエーションを設定して、事前に伏線を張っておいた思いがけない意外な動機を最後に開示すると、なお良いね。

 

 

「疑似施錠トリック」は、エイディ分類⑭ではちょっと出てきたね。

ドアストッパー(くさび)を使う以外にも、一見して施錠されているようで施錠されていない状態を作り出す方法は沢山ある。だから、これも項目としてきちんと作ったほうがいいと思う。たんに開かないふりをするだけではなく、物をつっかえさせる、ドアを水分で膨張する、ドアを壁越しに圧迫するなど。

 疑似施錠トリックは、実際に施錠されていたと思しき痕跡を作るために、密室解除後の再入室時に時間差施錠のインチキをすることが多い。

 

 

「自動施錠・外部施錠トリック」は、いかにもな物理トリックに聞こえるね。

でも、私の分類では、ある種の心理的なトリックになる。

 ここで問題。オートロックの扉で施錠された屋敷の、暗証ダイアル錠の鋼鉄扉で閉ざされた秘密通路奥の蒐集室に、さらに暗証ダイアル錠の金庫があり、金庫内に宝石が入っていた。ある日、蒐集室内で主人が殺された。後頭部を鈍器で殴られて、間違いなく他殺だ。金庫内からは宝石が盗まれて「探偵諸君、この謎が解けるかな?」とのメモが残されていた。屋敷の扉、蒐集室への鋼鉄扉、金庫扉はすべて施錠されていた。三つの扉はすべて強固で、操作できる隙間や痕跡はなく、三重密室への侵入は不可能だと考えられた。真犯人はどうやって主人を殺害し、宝石を盗んだでしょう?

真犯人は、ダイアルの暗証番号を知ってるの?

蒐集室と金庫の暗証番号は、どちらも屋敷の主人しか知らない。

じゃあ、絶対に無理そうだけど。

盲点になりやすい、シンプルな答えがある。犯人は密室に侵入していない。最初からすべての扉は開かれていたんだ。真犯人は、主人に屋敷に招かれて、蒐集室に案内され、金庫の宝石を見せてもらった。そこで主人を殺害する。

 メモを残して、金庫の外部から暗証ダイアルを廻して施錠する。秘密通路の鋼鉄扉を出て、外部から暗証ダイアルを廻して施錠する。最後に屋敷の扉を出る。オートロックなので、自動的に施錠される。おしまい。

な~んだ。つまんないの。

密室トリックのことを考えていると「施錠されているのに密室ではない」という素朴な可能性をうっかり忘れがちになるんだよ。扉が強固に施錠されているのに、実質的には非密室のことがある。いわば、抜け穴のない抜け穴密室だ。そうなる理由は、解錠による侵入は困難でも、元から開かれていた空間を出たあとの施錠は簡単で、鍵を必要としない機構があるからだ。

 スプリング付きラッチ錠やオートロックのような自動施錠の機構、暗証ダイアル錠のような外部施錠できる機構などだね。

 基本的には、内部にいる被害者自身の手によって扉が開かれる。犯人は元から開いていた扉から入って、出ていくときに閉めるだけ。あるいは、犯人は鍵を使って入り、出るときに鍵をおいていって、鍵を使わずに施錠する。犯人が出入りするだけではなく、凶器だけがそこを通るなどのさまざまな応用も考えられる。

 本来は開かれる理由のない扉があえて開かれる、登場人物の意外な動機を設定すると、より不可能な印象が生まれる。先ほどの例だと、屋敷の主人が保険金詐欺のために自分自身の宝石を盗ませた、なんて面白いかもね。もちろん雇われた共犯者が主人を裏切って本当に殺して盗んでしまうんだ。錠前などの機構を加工することで、自動施錠・外部施錠しうる状態にすることもある。

 

「消滅トリック」ってのは?

たとえば、その場にいない人物を、変装や鏡の映像や痕跡で一時的に存在するように見せて消すトリックは、エイディ分類ではおもに「⑳扮装トリック」に大別される。これは心理的な消失だ。実際に消すというより、無いものをあるように見せかけて消す。

 でも、私がここで特に「消滅トリック」と呼ぶものは、対象を物理的に消滅させるトリックを指す。氷柱のナイフや血液を凍らせた弾丸など、物質を消滅させるトリック自体は古典的だけど、密室内の犯人や被害者などを物理的に消滅させる方法は忘れがちになる。前述のように、浴槽で薬品溶融するとか、焼却、蒸発、液状化、切断・細分化、食事消化などの方法が考えられる。

食事消化?

たとえば、裸になることで容積を減らしトランクに隠れて侵入した犯人が、被害者をナイフで刺殺する。その後、犯人は足をすべらせて、水槽にいたサメに丸ごと食べられてしまう。全裸で来たので、もうひとり人間がいた痕跡がなくなってしまう。表面的には「どうやって密室内のサメがナイフで刺殺できたのだろう?」という謎を提示するわけだ。

骨が残りそうだけどね。

これだけでは拙いけれど、類似の応用例がいろいろ想像できると思う。エイリアンなら胃酸で溶かしてくれるかもしれない。

たかが密室を作るためだけに世界設定を歪めないでほしい。

 

 

「生成トリック」って聞いたことないな。

この起源は、最低でも江戸川乱歩「類別トリック集成」までは遡る。

 

今一段奇抜なのは、双葉十三郎君に聞いたのだが、たしかハーバート・ブリーンの作だったかと思う。先ず野外で人を殺しておいて、その死体の上に大急ぎで小屋を建築して、密室を作るという着想である。簡単な小屋なら一夜で建てられるのだから、これは不可能ではない。殺人のあとで家を建てるというのは、チェスタートンでも思いつきそうな手品趣味で、いかにも面白いと思った。
江戸川乱歩(2014)『江戸川乱歩全集 第27巻 続・幻影城』 光文社 強調引用者

 

この又聞きの出典を実際に調べた人がいたはずなんですが、お姉さんは忘れました。詳しい人教えてください。とにかく、物質を消滅させるトリックがあるなら、生成のトリックもまた分類としてありうる。生成系のトリックを、密室の構成要素に当てはめれば、以下のように大別できそうだ。

 

  • 密室環境の生成
  • 鍵の生成
  • 凶器の生成
  • 犯人の生成
  • 被害者の生成
  • 痕跡の生成
  • 施錠道具の生成

 

「密室環境の生成」が、死体の上に家を建てるようなやつだね。

もっと簡単に、脱出経路に壁を塗り固める程度のものも考えられる。

鍵の生成、つまり合鍵を作るトリックは、生成系に入るんだね。

一応、合鍵以外の理由で鍵を作ることも考えられるけど……。

密室ミステリって、合鍵の存在について考えることはタブーな気がするな。

現実というトラウマを想起させるからだろうね。現実に密室殺人が起これば「合鍵があったか作ったかでしょうね」で終わりだ。名探偵の出番はない。合鍵がなくてもピッキングという手もある。視線の密室も「なにか見落としたんでしょう」で片付く話だ。目撃証言の曖昧さなんて犯罪学の本にはそっけなく書かれているし、事実を確約してくれる神の視点の三人称描写は現実には存在しない。

 合鍵の存在を防ぐために、密室ミステリでは「合鍵の存在は考えられません。特殊な錠前ですので」という実態不明のマジックワードが頻発する。

でも、鍵が作れてる以上、合鍵は作りうるでしょ。

 なに言ってるの。アホ?

そうなんだけどね……。

どうしてサムターンや窓ガラスに、犯人が無駄に大掛かりな工作をする可能性については大真面目に考えるのに、より現実的な合鍵のことを思いつかなくなるのかな。

私は以前、3Dプリンターで合鍵を作る真相の話を書いたことがあるよ。一般家庭に用いられる程度のシリンダー錠なら、スマホの3Dスキャナーからでもそれなりに精巧な合鍵が作りうるみたいだ。プラスチックでも充分に鍵の用途は果たせる。一瞬、目を離すだけで鍵を複製される危険はある。昔のミステリだと蝋や粘土で型をとったりするけどね。

みなさんは、自分の鍵は写真でもネットに公開しないように。

被害者や犯人の生成は、ちょっと大掛かりだね。

どういうこと? 人間を生成するトリックがあるの?

このトリックが実在することを明かしたくない秀逸な作例がある。さしあたりの例示は、やや素朴なアイデアにしておくけど、たとえば宇宙船内のクローズドサークルで殺人事件が起こる。容疑者候補は、残された船員の他にいないと考えられる。だが、(被害者を除く)すべての船員たちの部屋は完全に船内システムでロックされ、誰ひとり被害者のいた空間へ出入りできないはずだった。何が起こったのか?

 真相……犯人は、実は被害者自身なんだ。目的地の星に辿りつくまでの長期間のコールド・スリープを利用して、船内装置で自分のクローンを培養して、自分自身の死体を生成したんだね。容疑者から外れたので、あとは殺し放題だ。最終的に脱出しても人数の辻褄が合う。バールストン・ギャンビット(真犯人を死者に見せかけるトリック)のバリエーションのひとつだ。

クローンで被害者を作るのは「被害者の生成」になるけれど、クローンのほうが元のやつを殺したら「犯人の生成」になるね。

凶器や痕跡についても、類似のアイデアがいろいろと考えられると思う。

 

 

「合鍵トリック」は、さっきの生成系に含まれるってことでいいの?

必ずしもそうとは限らない。合鍵を作成したのではなく、もとから合鍵が存在した可能性などもあり得るから、いちおう個別の項目として作っておきたい。合鍵も自動施錠・外部施錠と同様、「施錠されているのに密室ではない」心理的な密室を構成する。殺人後に合鍵で施錠したものを密室殺人と呼べるかという向きはあるかもしれないけれど、現場は密室殺人の痕跡とまったく変わらないからね。まじめに考える価値はある。

ミステリだと「鍵を持っていても、ドアを開けておけば全員が容疑者になるのだから、わざわざ犯人が施錠する理由はない」みたいな言い訳がなされたりするけど、事件発覚が遅れるのは普通にアドだよね。死亡推定時刻が広がるし、皆のアリバイも不鮮明になる。ないと思われていた合鍵を持っていたら、僕なら普通に使っちゃうな。人間心理的にも、死体のある部屋のドアを開けっ放しにしておくって、すごく気持ち悪いと思うんだよね。

私は、密室ミステリは「特殊な錠前」という実態不明のご都合主義に逃げず、合鍵の可能性に常に向き合うべきだと思っている。館の主人が「合鍵など作らせていない」と言い張っているだけでは、なんの証拠にもならない。合鍵がアンフェアなら、ドアの蝶番を弄るような物理トリックすべてを同様にアンフェアとしなければならない。特殊会合や秘密の同棲などの展開で、合鍵を作る意外な動機があったという伏線を張っておけば、常識的なミステリの手続きでも合鍵の存在は処理できる。錠前の合鍵だけではなく、指紋認証を突破するために身体を切断するとか、暗証番号を入力する操作パネルに薄いフィルムを貼って、指紋の付着した文字をアナグラムで候補を調べて総当りするとか、機構ごとに面白い方法はいろいろある。
 

 

 

ここで、架空の作例「新・斜め屋敷の犯罪」を考えてみよう。舞台は、建築基準法をめちゃくちゃ無視してめちゃくちゃな斜面に建てられた離れの小屋だ。
 

 

推理小説の世界には建築基準法が存在しないらしいね。

犯人Aは、ちょっとした思いつきで、氷の人形Bで小屋内の被害者Cを撲殺する。

なんでそんなことするの?

知らない。

知ってよ。

犯人が小屋を出たあとで、雪が降りつもる。その後、小屋の窓から見えた氷人形Bと被害者Cの物陰をみて、その他の人々は「Cさんが何者かと小屋で抱き合っているようだ」という印象をもつ。

 その後、小屋の暖房で氷人形Bが解けて、斜面のせいでつる~んと滑ってドアに激突。ドアの木材に水分が染み込む。

 翌日――Cさんが電話に応答しないので、探偵たち一行が足跡のない雪の地面を駆けより、開かないドアを体当たりで破る。ドアは実際には施錠されていないけれど、ドア材の水分膨張のせいで施錠されていると勘違いされる。

ミステリにはよくある場面だけど、実際はめったにドアを破らないよね。イヤホンで音楽聞いてたり、爆睡してるだけだったら、どうするつもりなんだろう?

特に事件が起こってもいないのに探偵一行がひたすら豪邸のドアを斧で破壊する連作ミステリがほしいね。

一話で逮捕しろそんな連中。

とにかくドアが破られ、死体が発見される。死体に目をとられているすきに、犯人はドアの差し金のカンヌキをこっそり挿入して、密室状態だったかのように偽装する。

密室殺人のできあがりだね。

さて、今回の事件、いくつのトリックが使われていると思う?

イデアとしては大したことないよね。やってることは「氷つる~んビショビショ殺人事件」って感じだし。密室ミステリってときどきバカみたいにクソデカい氷を使うトリックが出てくるけど、全部に ~床ビショビショ殺人事件~ って副題をつけろって思うよ。

でも「足跡のない雪密室」「施錠された小屋の密室」という二種類の密室が含まれるので、探偵役はそれなりに頭を悩ませるはずだよ。こんなトリックが使われている。

 

  1. 雪密室の封印前に殺害|誤認系-時間差殺人(+)|(氷人形の人影のせいで、降雪後の密室時間帯の犯行と誤認)
  2. 氷人形Bを犯人と誤認|誤認系-物人誤認
  3. 被害者Cを生者と誤認|誤認系-疑似生存
  4. 重力で氷がドア前まで移動|非貫通系-外部作用系
  5. 氷人形が解ける|消滅系-凶器の消滅|(同時に、犯人の消滅現象)
  6. 水分膨張でドアが開かない|誤認系-疑似施錠
  7. 密室解除後、施錠を偽装|誤認系-時間差施錠(-)

 

こんなバカミスに7つもトリックがあるの?

細かく分類すればそうなるね。密室トリック分類を使えば、このぐらいの密室殺人はパターン組み替えで簡単に作れる。それでも、本当に面白いものを作るのは難しいんだ。
 もちろん、犯人は普通に小屋のドアを出入りしているから、貫通系のトリックが+1個あるといえないこともないけれど、特殊な方法を使わずに出入りしたものは、わざわざ貫通系と呼ぶ必要はめったにない(この場合「疑似施錠」や「時間差殺人(+)」だけで、ほぼ出入りに関する説明が事足りている)。
 
 
 

ここまでの考察を踏まえて、密室トリックの概念を、以下の六つに系統分類してみました。
 
 〈作用範囲〉
 ①貫通系
 ②非貫通系
 
 〈施工方法〉
 ③誤認系
 ④加工系
 ⑤消滅系
 ⑥生成系
 
 

ハンターハンターの念能力みたいだね。

まず、密室は、何かしらの穴が貫通している貫通系か、密封されている非貫通系のどちらかだ。

 

 

 そして、非貫通の場合、密室殺人が内部作用によって成立する内部作用系か、仕切られた空間越しに影響を与える外部作用系かで区別する。
 


 この内部作用系の中に、これまで取り上げてきたような「自殺」「事故死」「遠隔操作・誘導死」「時間差死」「内部装置の殺人・施錠」「内部動物の殺人・施錠」「内部犯人の殺人・施錠」などの下位ジャンルがある。外部作用系も、だいたいそんな感じ。

でも、密室に穴が空いてても、非貫通系のトリックは使えるよね。

そうだね。トリックの作用範囲が非貫通系だということだ。内部作用と外部作用を組み合わせることもあるから、それぞれは排他的な分類というわけではない。

トリックの作用範囲の空間的区分が貫通系・非貫通系のどちらかで、実際に施工されるトリックには誤認系・加工系・消滅系・生成系があるんだね。

個別の〈施工方法〉は、貫通系/非貫通系のどちらに含まれる場合もある。だから別個に扱う。実際にミステリで用いられるトリックは、諸系統の複合型がほとんどだ。

 大雑把にいって、施工されるトリックには心理的なものと物理的なものがある。心理的トリックは「誤認系」で、物理的トリックは「加工系」「消滅系」「生成系」として大別した。
 エイディ分類でいう扮装トリックは、細かい場合を想定して「物人誤認・隠蔽」「痕跡・現象誤認」の項目に整理した。また、いわゆる物理・機械トリックでも、必ずしも内部装置によらない密室環境の加工などは、「加工系」としてまとめてある。
 個々の下位ジャンルを想定すると、以下のようになる。

 


 

 《くらやみお姉さんの新・密室トリック分類》

 

 〈作用範囲〉――貫通系/非貫通系
 
 ①:貫通系(密室殺人の構成要素となる物質(鍵・凶器・犯人・被害者・痕跡・施錠道具・密室環境など)を、何らかの出入口から密室内外に挿入/排出するトリック)
     ①A:貫通・挿入
         ①A1:密室内に鍵を挿入
         ①A2:密室内に凶器を挿入
         ①A3:密室内に犯人を挿入
         ①A4:密室内に被害者を挿入
         ①A5:密室内に痕跡を挿入
         ①A6:密室内に施錠道具を挿入
         ①A7:密室内に密室環境を挿入
         ①A8:密室内にその他の物質を挿入
     ①B:貫通・排出
         ①B1:密室外に鍵を排出
         ①B2:密室外に凶器を排出
         ①B3:密室外に犯人を排出
         ①B4:密室外に被害者を排出
         ①B5:密室外に痕跡を排出
         ①B6:密室外に施錠道具を排出
         ①B7:密室外に密室環境を排出
         ①B8:密室外にその他の物質を排出

 

 ②:非貫通系(密室内外に物質の出し入れがないトリック)
     ②A:内部作用系(密室内部で作用が成立する)
         ②A1:自殺・自傷
         ②A2:事故死
         ②A3:遠隔操作・誘導死
         ②A4:時間差死
         ②A5:病死・自然死
         ②A6:内部装置の殺人や施錠
         ②A7:内部動物の殺人や施錠
         ②A8:内部犯人の殺人や施錠
     ②B:外部作用系(密室外から密室内に遠隔作用しうる諸力を、殺人や事故死や誘導死、痕跡の操作、施錠などに利用する)

 

 〈施工方法〉――心理トリック(誤認系)/物理トリック(加工系/消滅系/生成系)

 

 ③:誤認系(観測者の誤認に基づく心理的トリック)
     ③A:時間差系(密室時間帯の〈封印-解除〉の外部で犯行、密室時間中と誤認)
         ③A1:時間差殺人(+)|封印前に被害者を殺害
         ③A2:時間差挿入(+)|封印前に鍵・凶器・被害者・痕跡・密室環境等の挿入
         ③A3:時間差排出(+)|封印前に鍵・凶器・被害者・痕跡・密室環境等の排出
         ③A4:時間差施錠(+)|想定解除前の解除
         ③A5:時間差侵入(+)|封印前に犯人侵入
         ③A6:時間差脱出(+)|封印前に犯人脱出        
         ③A7:時間差殺人(-)|解除後に被害者を殺害
         ③A8:時間差挿入(-)|解除後に鍵・凶器・被害者・痕跡・密室環境等の挿入
         ③A9:時間差排出(-)|解除後に鍵・凶器・被害者・痕跡・密室環境等の排出
         ③A10:時間差施錠(-)|想定封印後の封印
         ③A11:時間差侵入(-)|解除後に犯人侵入
         ③A12:時間差脱出(-)|解除後に犯人脱出
     ③B:空間差系(ある空間と別の空間の誤認)
         ③B1:空間自体の交換・すり替え・複製・錯覚
         ③B2:空間を識別する標識の交換・すり替え・複製・錯覚
  ③C:物人誤認・隠蔽
      ③C1:人から人|人間を(別の)人間に誤認
      ③C2:物から物|物質を(別の)物質に誤認
      ③C3:物から人|物質を人間に誤認
      ③C4:人から物|人間を物質に誤認
      ③C5:物質隠蔽|意外な隠し場所
      ③C6:人間隠蔽|意外な隠し場所
  ③D:痕跡・現象誤認
         ③D1:誤った存在者を推認する
         ③D2:誤った出来事を推認する
         ③D3:正しい存在者が読解困難になる
         ③D4:正しい出来事が読解困難になる             
     ③E:犯人隠蔽
         ③E1:意外な犯人(動物トリック含む)
         ③E2:意外な隠遁
         ③E3:意外な脱出方法(曲芸トリック含む)
         ③E4:意外な誤認
     ③F:生死誤認
         ③F1:疑似死亡
         ③F2:疑似生存
     ③G:虚偽
         ③G1:意図的な作話
         ③G2:非意図的な錯覚・幻覚
         ③G3:叙述トリックによる情報誤認
         ③G4:世界レベルの錯誤
     ③H:疑似施錠
     ③I:自動施錠・外部施錠
     ③J:合鍵
     
 ④加工系(物質を加工する物理的トリック)
     ④A:密室環境の加工
     ④B:鍵の加工
     ④C:凶器の加工
     ④D:犯人の加工
     ④E:被害者の加工
     ④F:痕跡の加工
     ④G:施錠道具の加工
     ④H:その他の物質の加工

 ⑤消滅系(物質を消滅させる物理的トリック)
  ⑤A:密室環境の消滅
  ⑤B:鍵の消滅
  ⑤C:凶器の消滅
  ⑤D:犯人の消滅
  ⑤E:被害者の消滅
  ⑤F:痕跡の消滅
  ⑤G:施錠道具の生成
  ⑤H:その他の物質の消滅

 ⑥生成系(物質を生成する物理的トリック)
     ⑥A:密室環境の生成
     ⑥B:鍵の生成
     ⑥C:凶器の生成
     ⑥D:犯人の生成
     ⑥E:被害者の生成
     ⑥F:痕跡の生成
     ⑥G:施錠道具の生成
     ⑥H:その他の物質の生成

 


これで、ずいぶん簡単になったね。 

そうか?

「物人誤認・隠蔽」と「痕跡・現象誤認」の違いがよくわからないな。

たとえば、犯人が変装することで、すでに殺した被害者がまだ生きていたと思わせるトリックは「③C1:人から人」の物人誤認だ。

 でも、この種の誤認は、物や人間を直接に別の人間に見間違えるだけで起こるわけではない。たとえば、犯人が糸で操ったドアの動作とか、部屋の中からした物音などの現象から、実在しない人間がそこにいた錯覚が生まれた場合、ドアや物音を直接に人間と思ったのではない。痕跡・現象から存在を推認している。よって、その場合、痕跡・現象誤認の「③D1:誤った存在者を推認する」に該当する。

 人間を動物に誤認するとか、人間を幽霊に誤認するとか、煩雑になりすぎるアドホックな例外も全部ここに突っ込む。この区別によって、エイディ分類の「扮装トリック」だけでは取りこぼしてしまう細かい事例も捕捉できる。どちらに分類するべきか微妙な事例はたくさんあるんだけどね。

「③D2:誤った出来事を推認する」の項目はずるいな。密室殺人なんてある意味ぜんぶそうじゃん。

そうなんだけどね……。こうとしか言いようがない例があるんだ。

「世界レベルの錯誤」は心理的トリックというか、広い意味での物理的トリックも含んでいるんじゃないのかな。

異論はたくさん出ると思う。登場人物ではなく、読者の心理に働きかけるトリックという意味で、一応ここに入れてみたけど。まだ分類は叩き台にすぎない。私が「密室環境の加工」で大雑把に済ませたところを、エイディ分類だとさらに細かい事例を入れている。物理トリックの下位分類を考えてみたい人は、自分なりに気の利いた整理方法を考えてほしい。
 密室の構成要素として、犯人と被害者しか基本的な登場人物に含めていないのは、便宜上の単純化であるのも理解してほしい。実際には従犯や、犯人・被害者以外の関係者が殺人以外の理由でトリックを弄した結果、密室殺人を含む奇妙な犯行現場が生まれる話は沢山あるし、その種のプロットの複雑化がなければ、ミステリはなかなか面白くならないものなんだ。

こんな密室トリック分類があったら、密室ミステリを読んだって、真相がわかってつまらないんじゃないの?

そうとも限らないよ。私はホックの短編ミステリを読んでも、途中で真相がわかることのほうがずっと少ない。きちんと書かれたミステリであれば、密室トリックの原理を知っていても答えがわからないことのほうが絶対に多いと思う。以下の理由が考えられる。

 

  • 真相から目を逸らさせる適切なミスディレクションがある
  • 複数系統のトリックを併用するため、状況から逆算が困難
  • トリックの原理を知ることで、かえって選択肢が増加する
  • 私たちが、たいして賢くない

 

たしかに〈氷つる~んビショビショ殺人事件〉でさえ7つのトリックが含まれるんだから、トリック分類があっても混乱するだけかもね。普通に考えたほうが楽かも。

天城一「密室作法〔改訂〕」でこう述べている。
 

 最後に、この小稿を閉るにあたって、非才をかえりみず、作家及び作家たろうとする読者諸君に、忠告をしたい。一言につくせば、
「密室トリックを尊敬しすぎるな」
 といいたい。
 密室のトリックは、今日では、とくに困難なものでもないし、天才でなければ思いつけない高い水準の独創を必要とするものでもない。ポーからチェスタトンに至る先哲たちの時代にあっては、多くの独創力を必要としたであろう。しかし、そのおかげで、現在では通常のクラフツマン程度の創意があれば、密室を構成するに足りるといってよい。
 密室トリックの作り方には、ある公式のようなものがある。一旦この公式に気づけば、所要のデータを代入するだけで、求めるトリックができ上るようなところがある。(中略)
 密室トリックは、基本的には、一つの思いつきに発するトリックで、クロフツ型の緊密に構成されたアリバイ・トリックを玄人の仕事とすれば、密室トリックはアマチュア・ワークである。マチュアの持つ一種の稚拙さともいうべきものが、このトリックの生命であって、作品にういういしさを与えているといわなければならない。


天城一日下三蔵編(2020)『天城一の密室犯罪学教程』 宝島社 pp.580-2 強調引用者

 

私もこの意見に賛同する。密室トリック分類なるものを調べたことがある人は、誰でもある種の全能感みたいなものを一時的に経験すると思う。このような魔術の手法があれば、どんなことでもできるんじゃないか。でも、実際に書いてみると、盛り上がっているのは作者だけで、作品は期待するほどの効果を上げていない場合がほとんどだ。
 密室トリックは幼稚な遊戯だ。その幼稚さはトリックの原理から来る本質的なものだ。基本的には、不可能を構成する諸前提の鎖のたった一箇所を切れば成立する。時間差殺人(+)なら物人誤認で疑似生存ねって感じで、辻褄合わせのパターンも決まっている。

 密室ミステリはいくら複雑な状況を想定したところで、核の部分は所詮ワンアイデアだ。密室愛好家こそ、密室の面白さは畢竟、子供の冗談みたいなものであることを忘れてはならないと思う。現実世界では、子供の冗談は通用しない。「合鍵があったか作ったかでしょうね」で片付く話だ。私たちの愛する密室は、メルヘンの世界でしか生きられないんだ。

そんなお姉さんは、どうして密室殺人を愛しているの?

それがわかれば苦労しないよ。本当にわからないんだ。助けてよ。

 

3.類別トリック集成(〈サム・ホーソーンの事件簿〉版)

 

さて、分類も完成したことだし、〈サム・ホーソーンの事件簿〉をこの密室トリック分類に当てはめて分析してみよう。

……というのは記事の構成上の説明で、実際には分析をしながら密室トリック分類の項目を適宜追加していったんだよ。

〈サム・ホーソーンの事件簿〉は一冊に一二話が収録されている。六巻で総計七二話。まず、各話に #**** という四桁のシリアルコードを付ける。

コードに対応する作品名は、この記事の末尾にまとめておきました。参照すると直接的なネタバレになるので、読了後に確認するように。

そして、七二話を全部読む。使用されたトリックを、自作の密室トリック分類に当てはめていく。単純作業のわりに大変で、締切を前に挫けそうになりました。すべて手作業なのでミスが沢山あると思われます。

ロバート・エイディの密室分類本の作例は二〇〇〇作以上、江戸川乱歩の類別トリック集成は八〇〇作以上だよ。たかが六冊でごちゃごちゃ言わないでよ。

先例のスケールが千例スケールなのはずるいな。

手厳しい洗礼だね。

みなさんも手元の推理小説で自作のトリック分類を作ってみてください。乱歩の偉大さがわかります。集計のレギュレーションはこんな感じ。

 

  • 「貫通系」のトリックは、密閉された空間を物理トリックとして特筆しうる手法で出入りしていると判断したものだけ集計した
  • いわゆる「捨てトリック」は集計しない
  • 密室殺人や不可能犯罪とは通常みなされない作例でも、トリック分類の原理的に同種のトリックを用いている場合は集計した

 

貫通系だけ、こんな集計方法になってるのはなんで?

大量の被りが出て煩雑になるから。たとえば、時間差密室トリックを使って、密室時間帯から外れた時間に犯人が出入りしているものは、実質的には貫通系だけれど、そういう心理的なトリック全般はここでは数えていない。

捨てトリックって何?

有力で魅力的な仮説だけど、最終的には棄却されるトリックのことだね。俗語かもしれない。通常の推理の過程で検討される仮説と「魅力的な仮説」の区別は、主観的な判断が多数含まれると考えて削除した。

 


これまでの密室トリック分類の、各項目の説明のなかで、わからないところがあった場合は、〈サム・ホーソーンの事件簿〉をひととおり読んだうえで、以下の集計結果を参照して、項目に対応するホックの作例を確認してください。本稿がいったいなんの話をしていたのか理解できると思います。大半のトリックの作例があるので、〈サム・ホーソーンの事件簿〉を研究すれば、密室ミステリを書くための基本的な技術は身につくと考えていいはずです。


 

 

集計結果はこんな感じでした。

長いのでスクロール推奨だよ。
 



  「サム・ホーソーンの事件簿」トリック集計結果

 〈作用範囲〉――貫通系/非貫通系
 
 ①:貫通系(40例)
     ①A:貫通・挿入(17例)
         ①A1:密室内に鍵を挿入(0例)
         ①A2:密室内に凶器を挿入(8例)*非殺人含む
             作例|#LOCA, #GEST, #SEBO, #COCH, #ENTE, #ANAR, #BABU, #SPAT
         ①A3:密室内に犯人を挿入(6例)
             作例|#WHHO, #HULO, #SNCA, #POSH, #ANAR, #TRTA
         ①A4:密室内に被害者を挿入(1例)
             作例|#COFA
         ①A5:密室内に痕跡を挿入(1例)
             作例|#SCCO
         ①A6:密室内に施錠道具を挿入(1例)
             作例|#ANAR
         ①A7:密室内に密室環境を挿入(0例)
         ①A8:密室内にその他の物質を挿入(0例)
         
     ①B:貫通・排出(23例)
         ①B1:密室外に鍵を排出(0例)
         ①B2:密室外に凶器を排出(7例)*非殺人含む
             作例|#LOSH, #LOCA, #GEST, #COCH, #ENTE, #ANAR, #BABU
         ①B3:密室外に犯人を排出(7例)
             作例|#WHHO, #GIHO, #HULO, #SNCA, #POSH, #ANAR, #TRTA
         ①B4:密室外に被害者を排出(3例)
             作例|#COCH, #ENTE, #BABU
         ①B5:密室外に痕跡を排出(5例)
             作例|#OLGR, #CHST, #CE16, #SALI, #UNDO
         ①B6:密室外に施錠道具を排出(1例)
             作例|#ANAR
         ①B7:密室外に密室環境を排出(0例)
         ①B8:密室外にその他の物質を排出(0例)

 

 ②:非貫通系(19例)
     ②A:内部作用系(18例)
         ②A1:自殺・自傷(2例)
             作例|#VOBO, #2CBR
         ②A2:事故死(4例)*負傷・生存含む
             作例|#COGA, #PIWI, #HATE, #BLCL
         ②A3:遠隔操作・誘導死(4例)
             作例|#PIWI, #VOBO, #POPO, #MIJA
         ②A4:時間差死(3例)
             作例|#BOCO, #GRHA, #DYPA
         ②A5:病死・自然死(1例)
             作例|#GYCA
         ②A6:内部装置の殺人や施錠(1例)
             作例|#OCRO
         ②A7:内部動物の殺人や施錠(1例)
             作例|#CACA
         ②A8:内部犯人の殺人や施錠(2例)
             作例|#RETE, #TIGO
             
     ②B:外部作用系(1例)
         作例|#OCRO

 

 〈施工方法〉――心理トリック(誤認系)/物理トリック(加工系/消滅系/生成系)

 

 ③:誤認系(140例)
     ③A:時間差系(30例)
         ③A1:時間差殺人(+)(12例)*非殺人、従犯含む
             作例|#LRSC, #CHST, #WHHO, #GIHO, #BOCA, #BOHA, #SALI, #GRPI, #UNPA, #PRFA, #YEWA, #SHRI
         ③A2:時間差挿入(+)(6例)
             作例|#LOSH, #VOBO, #COGA, #BOHA, #CRRO, #SUCO
         ③A3:時間差排出(+)(1例)
             作例|#YEWA
         ③A4:時間差施錠(+)(1例)
             作例|#SUSN
         ③A5:時間差侵入(+)(2例)*非殺人含む
             作例|#TIGO, #POPO
         ③A6:時間差脱出(+)(1例)*非殺人含む
             作例|#GYCA
         ③A7:時間差殺人(-)(1例)
             作例|#OOTR
         ③A8:時間差挿入(-)(4例)
             作例|#FAFI, #PRFA, #POPO, #SCCO
         ③A9:時間差排出(-)(1例)
             作例|#OCRO
         ③A10:時間差施錠(-)(0例)
         ③A11:時間差侵入(-)(0例)
         ③A12:時間差脱出(-)(1例)
             作例|#CE16
             
     ③B:空間差系(13例)
         ③B1:空間自体の交換・すり替え・複製・錯覚(8例)
             作例|#OLGR, #COFA, #SEBO, #COCH, #PHPA, #COMA, #CRCE, #SCCO
         ③B2:空間を識別する標識の交換・すり替え・複製・錯覚(5例)
             作例|#BLBI, #MIRO, #COMA, #MIJA, #DEOR

  ③C:物人誤認・隠蔽(34例)
      ③C1:人から人(12例)
          作例|#LRSC, #CHST, #WHHO, #BOCA, #TIGO, #BOHA, #GRPI, #INAC, #THRO, #BLRO, #UNDO, #SHRI
      ③C2:物から物(4例)
          作例|#BOCO, #2CBR, #SUSN, #INSE
      ③C3:物から人(2例)
          作例|#CE16, #GYCA
      ③C4:人から物(1例)
          作例|#SUSN
      ③C5:物質隠蔽(11例)
          作例|#LOCA, #VOBO, #COGA, #PPOF, #CUBA, #BLRO, #YEWA, #HAHO, #INSE, #SHRI, #SPAT
      ③C6:人間隠蔽(4例)
          作例|#BOCA, #TWBI, #POPO, #SUCO
      
  ③D:痕跡・現象誤認(26例)
         ③D1:誤った存在者を推認する(9例)
             作例|#HABA, #GIHO, #SALI, #UNPA, #VASA, #ENOW, #YEWA, #HAHO, #BABU
         ③D2:誤った出来事を推認する(10例)
             作例|#COBR, #CE16, #GEST, #GYCA, #GRPI, #CRRO, #INAC, #MIRO, #MIJA, #SUCO
         ③D3:正しい存在者が読解困難になる(1例)
             作例|#THRO
         ③D4:正しい出来事が読解困難になる(6例)
             作例|#HULO, #FAFI, #HATE, #POPO, #ENTE, #SHRI
                  
     ③E:犯人隠蔽(14例)
         ③E1:意外な犯人(7例)
             作例|#BOCO, #THRO, #BLRO, #COMA, #ANAR, #POSH, #SUCO
         ③E2:意外な隠遁(4例)
             作例|#CE16, #TIGO, #SPAS, #SUCO
         ③E3:意外な脱出方法(2例)
             作例|#TIGO, #POSH
         ③E4:意外な誤認(1例)
             作例|#RETE
         
     ③F:生死誤認(9例)
         ③F1:疑似死亡(1例)
            作例|#OOTR
         ③F2:疑似生存(8例)
            作例|#CHST, #WHHO, #GIHO, #BOCA, #BOHA, #GRPI, #UNPA, #YEWA
        
     ③G:虚偽(7例)
         ③G1:意図的な作話(5例)
             作例|#COIN, #BLRO, #LEMA, #PIWI, #HAHO
         ③G2:非意図的な錯覚・幻覚(2例)
             作例|#LEMA, #SHRI
         ③G3:叙述トリックによる情報誤認(0例)
         ③G4:世界レベルの錯誤(0例)
         
     ③H:疑似施錠(3例)
         作例|#CE16, #COIN, #TWBI
     
     ③I:自動施錠・外部施錠(4例)
         作例|#CE16, #LOCA, #CACA, #SPAS
     
     ③J:合鍵(0例)
     
 ④加工系(16例)
     ④A:密室環境の加工(4例)
         作例|#COIN, #CE16, #SNCA, #TRTA
     ④B:鍵の加工(0例)
     ④C:凶器の加工(4例)
         作例|#DYPA, #2CBR, #INSE, #SPAT
     ④D:犯人の加工(1例)
         作例|#RETE
     ④E:被害者の加工(0例)
     ④F:痕跡の加工(7例)
         作例|#GYCA, #HULO,  #SNCA, #MIRO, #YEWA, #BABU, #BLCL
     ④G:施錠道具の加工(0例)
     ④H:その他の物質の加工(0例)

 ⑤消滅系(6例)
  ⑤A:密室環境の消滅(0例)
  ⑤B:鍵の消滅(0例)
  ⑤C:凶器の消滅(1例)
      作例|#INSE
  ⑤D:犯人の消滅(0例)
  ⑤E:被害者の消滅(0例)
  ⑤F:痕跡の消滅(5例)
      作例|#OLGR, #HABA, #PIWI, #DYPA, #SPAT
  ⑤G:施錠道具の生成(0例)
  ⑤H:その他の物質の消滅(0例)

 ⑥生成系(0例)
     ⑥A:密室環境の生成
     ⑥B:鍵の生成
     ⑥C:凶器の生成
     ⑥D:犯人の生成
     ⑥E:被害者の生成
     ⑥F:痕跡の生成
     ⑥G:施錠道具の生成
     ⑥H:その他の物質の生成 


 

複数項目に登場する作例があるのは、一作品のなかで複数のトリックが使われるからだね。計算したら、短編ひとつに用いられるトリック数の平均値は3.111...だった。

そんなもんかって感じだな。

最多トリック短編は、冒頭でも紹介した「十六号独房の謎」。8つのトリックが使われているうえ、個々のトリックの原理が大きく違うので、リッチな短編だといえる。次点は7トリックの「動物病院の謎」だけど、ほとんど同じ原理でも集計せざるをえない分類上の都合で上になっているだけなので、あまり納得はいかない。

 トリック数順に並べてみても、トリックが多いほど面白いとはいえない。「青い自転車の謎」の人間消失トリックはシンプルで、使用原理は1トリックだけど、きっと「動物病院の謎」よりは面白いだろう。

お姉さんの主観だけどね。 

いくつか、気になる項目を見ていこう。まず、非貫通系が、想像よりも少ない気がしない? 私たちは、密室殺人といえば、完全に密閉された空間のなかで殺人が起こるものという印象を持っているかもしれない。

 でも、〈サム・ホーソーンの事件簿〉の中では、空間的に密閉された非貫通の環境で殺人が成立しているものは、19例しかない。作例 #VOBO を複数のトリックで数えているから、実際には18例。残る54例は、何らかのかたちで実質的には貫通系であることになる(作例すべてが密室殺人ではないから、誤差はあるけれど)。

 

〈サム・ホーソーンの事件簿〉の密室殺人で、純粋な密室を構成する非貫通系のトリックは、実際には4分の1程度しかないんだね。

ここから、次の知見が得られる。

 

 

なんだか身もふたもないな。

強度の高い密室を、内部作用で完結させるか、外部作用で突破するような密室制作法は、密室分類から考えると立派な手法に思えるけれど、案外と作例は少ない。それより、たとえば時間差密室などのような、非密室における殺人を心理的に密室と誤認させる方法のほうが多く使われている。

 続いて、心理的トリック(誤認系)と、物理的トリック(加工系+消滅系+生成系)の割合を調べてみよう。

この比較、ちょっとズルいんだよな。だって、心理的トリックのほうが下位分類が多いから、被りも含めてたくさん採られているに決まっているじゃん。

実際に心理的トリックが多いから下位分類が増えた側面もある。とにかく、〈サム・ホーソーンの事件簿〉における心理的・物理的トリックの割合はこうなった。

 

 

やっぱり、圧倒的に心理的トリックが多いな。

これを意外と思う人もいるかもしれないね。密室殺人といえば物理トリックという印象はそれなりに蔓延っているから。でも、実際には、不可能犯罪や密室殺人の短編ばかり書いてきた、トリックメイカーとして知られるエドワード・D・ホックは、心理的トリックをより多く用いて、不可能を可能にしている。

 「トリック≒物理トリック」という偏狭で実態のない印象は、密室殺人に関するイメージを貧弱にしている。物理トリックは思いつかないから、密室殺人の話は書けないと考える必要はない。誤認系の十パターンを様々なシチュエーションに当てはめるだけでも、多様なバリエーションのある密室状況は作ることができる。

 

 

あと、ちょっと気づいたこととしては、ホックって鍵に関するトリックをほとんど使わないんだよね。〈サム・ホーソーンの事件簿〉の中では、密室内に施錠道具を挿入・排出するトリックが一件あっただけ。基本的な発想にないのかもしれない。

密室殺人といえば、鍵を室内に戻したり、鍵束からすり替えたりとかってよくある場面だけど。

おそらく、ホックは施錠から密室を考えていないんだよ。トリックを用いるシチュエーションから場面を膨らませるようにして話を考えていると思う。施錠単体で完結する物理トリックは、トリックの部分だけで独立していて、話がそれ以上広がらない。でも、心理的トリックの場合、問題の誤認が構成されるシチュエーションの総体を考えなければ完成しない。自然と話が広がる。だから、ホックは心理的トリックをよく使うんじゃないかな。

 

 

それでは、個別の心理的トリックの割合を見てみよう。
 

 

見どころは沢山あるね。自動施錠・外部施錠はマニアックで気づかれにくいトリックだけど、いくつか作例がある。でも疑似施錠とともに、心理的トリックの中では少数派だ。みなさんには、施錠をどうこうするだけが密室トリックではない、という意識をもってほしい。虚偽トリックなんて馬鹿馬鹿しいと思う向きもあるかもしれないけれど、5%もあると無視できない。項目として充分に扱う価値があることがわかる。空間差系は印象に残るから、もっと多いような気がしていたな。

「物人誤認・隠蔽」「時間差系」がトップ2だね。

密室封印前に犯行がなされる、時間差(+)の殺人では、扮装系のトリックを併用することが多いという話を覚えているかな。

封印前に被害者が死んでいるから、死んでいる被害者を生きているように見せかける扮装関係のトリックが基本技になるって話だったよね。

心理的トリックの中でも、この複合技が非常に使われやすいために、互いに割合が高くなっている。そうなる理由はいろいろ考えられる。

 まず、犯人がアリバイを作るという基本的な目的があるため、動機の面で書きやすい。そして、これは私の考えだけれど、扮装というのは基本的に活字向きのトリックなんじゃないかと思う。映像的な視覚データがあるところだと、変装した人が出るとちょっと馬鹿馬鹿しく見えるんだよね。生身のデータは小説の描写以上の精度があるから。

 映像と比べて、言葉越しの描写では、一人称の語り手がAさんだと思い込んでいる人を、細部の齟齬からBさんだと見抜くのはかなり難しい。

扮装系のトリックは、読者を手軽に驚かせるのに最適だということだね。それを密室トリックと兼ね合わせると、物人誤認・時間差系のコンボ技になると。

そして、時間差殺人は(-)より(+)が多い。封印前に犯行が終わっていることのほうが、解除後の早業殺人よりずっと多い。そうなる理由は、天城一も指摘している。

 

乱歩《類別トリック集成》では、時間差(+)の例は15も挙げられているのに、時間差(-)はたった2例しかありません。その理由は単純で、死んでしまった者を生きているかのように偽装する手段はたくさんあるのに、その逆に、生きている者を死んでしまったかのように見せかけることは案外に難しく、技術がまだ十分に開発されていないからです。 
天城一日下三蔵編(2020)『天城一の密室犯罪学教程』 宝島社 p.253 強調引用者

 

あまり状況は変わっていないみたいだね。〈サム・ホーソーンの事件簿〉においても、疑似死亡(1例)に対して疑似生存(8例)と大差がついている。

疑似死亡は技術的に困難というより、書けないこともないんだけど、人間が死んで見える状態って、単にじっとしているだけだから、シチュエーションが限られて動きもなく、あまり面白くならないことが多いと思うんだよね。

 扮装は状況しだいでおもしろいシチュエーションを生むし、扮装以外の様々な現象・痕跡によっても、生存していると思わせることができる。

 

 

もっと云いたいこともあるけれど、実際にホックの作例を読んだほうが身になる発見ができると思う。

 空間差系トリックや疑似施錠トリックだけでなく、「虚偽トリック」「自動施錠・外部施錠トリック」「病死・自然死トリック」などの、あまり密室トリック分類では指摘されなかった項目を追加できたのは、ホックの短編に作例を発見したからであり、本稿の筆者の手柄ではないことを、最後に書いておかなければならない。
 エドワード・D・ホックはオーパーツのような作家なんだ。いつも傑作ばかり書いているわけではないけれど、もっと読まれてもいい作家だと思います。

4.人類の進歩と調和

 

 

さて、密室ミステリ入門編は終わったことだし、次は応用編だ。

まだ続くの?

いずれ、より最強に近づいた密室トリック分類とともに、この私がみなさんの前に立ちはだかることになるでしょう。これが、今回の真のまとめです。

 

 

あ、終わりです。ばいばい。

ではまた。
 
 

 

 𝑺𝑷𝑬𝑪𝑰𝑨𝑳 𝑻𝑯𝑨𝑵𝑲𝑺 / デジカメを貸してくれたお父さん 


 参考文献:

 天城一日下三蔵編(2020)『天城一の密室犯罪学教程』 宝島社
 江戸川乱歩(2014)『江戸川乱歩全集 第27巻 続・幻影城』 光文社
 森英俊(1998)『世界ミステリ作家事典【本格派篇】』国書刊行会
 Adey, Robert C.S.;Skupin,Brian.(2018) Locked Room Murders Second Edition revised / Locked Room International
 Carr, John Dickson;加賀山卓朗訳(2014)『三つの棺』 早川書房
 Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2000)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ』 東京創元社
 Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2002)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅱ』 東京創元社
 Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2004)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅲ』 東京創元社
 Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2006)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅳ』 東京創元社
 Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2007)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅴ』 東京創元社
 Hoch, Edward D.;木村二郎訳(2009)『サム・ホーソーンの事件簿Ⅵ』 東京創元社
 Skupin,Brian.(2019) Locked Room Murders, Supplement / Locked Room International
 Smith, Derek.;森英俊訳(1999)『悪魔を呼び起こせ』 国書刊行会

 

 追記(2022/05/15):「密室環境の時間差挿入・排出」に関する説明を付加、文面を適宜修正

  
 ※基本的に、読了後に参照のこと
 〈サム・ホーソーンの事件簿〉各話シリアルコード
 (ネタバレ防止のため白文字。反転で読めます)
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 サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ:
 #COBR「有蓋橋の謎」
 #OLGR「水車小屋の謎」
 #LOSH「ロブスター小屋の謎」
 #HABA「呪われた野外音楽堂の謎」
 #LOCA「乗務員車の謎」
 #LRSC「赤い校舎の謎」
 #CHST「そびえ立つ尖塔の謎」
 #CE16「十六号独房の謎」
 #COIN「古い田舎宿の謎」
 #VOBO「投票ブースの謎」
 #COFA「農産物祭りの謎」
 #OOTR「古い樫の木の謎」

 サム・ホーソーンの事件簿Ⅱ: 
 #RETE「伝道集会テントの謎」
 #WHHO「ささやく家の謎」
 #BOCO「ボストン・コモン公園の謎」
 #GEST「食料雑貨店の謎」
 #COGA「醜いガーゴイルの謎」
 #PIWI「オランダ風車の謎」
 #GIHO「ハウスボートの謎」
 #PPOF「ピンクの郵便局の謎」
 #OCRO「八角形の部屋の謎」
 #GYCA「ジプシー・キャンプの謎」
 #BOCA「ギャングスターの車の謎」
 #TIGO「ブリキの鵞鳥の謎」
 
 サム・ホーソーンの事件簿Ⅲ:
 #HULO「ハンティング・ロッジの謎」
 #BOHA「干し草に埋もれた死体の謎」
 #SALI「サンタの灯台の謎」
 #GRPI「墓地のピクニックの謎」
 #CRRO「防音を施した親子室の謎」
 #FAFI「危険な爆竹の謎」
 #UNPA「描きかけの水彩画の謎」
 #SEBO「密封された酒びんの謎」
 #INAC「消えた空中ブランコ乗りの謎」
 #CUBA「真っ暗になった通気熟成所の謎」
 #SNCA「雪に閉ざされた山小屋の謎」
 #THRO「窓のない避雷室の謎」
 
 サム・ホーソーンの事件簿Ⅳ:
 #BLRO「黒いロードスターの謎」
 #TWBI「二つの母斑の謎」
 #DYPA「重体患者の謎」
 #PRFA「要塞と化した農家の謎」
 #HATE「呪われたティピーの謎」
 #BLBI「青い自転車の謎」
 #COCH「田舎教会の謎」
 #GRHA「グレンジ・ホールの謎」
 #VASA「消えたセールスマンの謎」
 #LEMA「革服の男の謎」
 #PHPA「幻の談話室の謎」
 #POPO「毒入りプールの謎」
 
 サム・ホーソーンの事件簿Ⅴ:
 #MIRO「消えたロードハウスの謎」
 #COMA「田舎道に立つ郵便受けの謎」
 #CRCE「混み合った墓地の謎」
 #ENOW「巨大ミミズクの謎」
 #MIJA「奇跡を起こす水瓶の謎」
 #ENTE「幽霊が出るテラスの謎」
 #UNDO「知られざる扉の謎」
 #2CBR「有蓋蓋の第二の謎」
 #SCCO「案山子会議の謎」
 #ANAR「動物病院の謎」
 #POSH「園芸道具置場の謎」
 #YEWA「黄色い壁紙の謎」
  
 サム・ホーソーンの事件簿Ⅵ:
 #HAHO「幽霊が出る病院の謎」
 #TRTA「旅人の話の謎」
 #BABU「巨大ノスリの謎」
 #INSE「中断された降霊会の謎」
 #CACA「対立候補が持つ丸太小屋の謎」
 #BLCL「黒修道院の謎」
 #SPAS「秘密の通路の謎」
 #DEOR「悪魔の果樹園の謎」
 #SHRI「羊飼いの指輪の謎」
 #SUCO「自殺者が好む別荘の謎」
 #SUSN「夏の雪だるまの謎」
 #SPAT「秘密の患者の謎」
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